風邪を引くなんてもんじゃない、このままだと埋もれてしまう。

そんな思いが強くなり慌てて連れ戻そうと貴未も踏み出し雪の中を進もうとする、しかし聖の言葉が貴未の足を止めた。

「俺らは裏切り者なんや。」

声はいつもの調子だった。

今日の出来事を話すような、何も変わらない声だった。

しかしどこか儚げなその姿に貴未は聖の繊細さを痛感する。

「国から逃げ出しても…どこにおっても裏切り者なんや。」

聖と彼の名前を呼ぶことでさえ躊躇ってしまうほど今の彼には形を成すものが不安定すぎた。

語尾が上ずっていたことは本人も気付いているだろう、そして震えていたことも。

どれだけ雪が聖自身も彼の声も埋めようとしていても貴未には届いていた。

「すまんな。…もう聞かんとってくれ。」

微かに見えた横顔は口元だけ笑っていた。

もしかしたら泣いているのかもしれない、でも泣けないのかもしれない。

ただあまりにも儚すぎる彼の姿と告白に貴未は何も言うことが出来なくなった。