聖に向けられた強烈なまでの悪意の視線、辛辣な言葉、怒り、罵声、そして泣き声、目を閉じるだけで頼んでもいないのに思い出されて仕方ない。

酒でも煽らないと眠れない日も少なくなかった。

唯一自分を褒められたのはそれに立ち向かう姿勢を紅に魅せられたということだ。

いま自分が背負い押しつぶされそうになっている記憶があの時のものだと知られる訳にはいかない。

そしてその悪夢から解き放たれたような感覚に口元が緩む自分に嫌気がさした。

目元が熱くなってもやはり口角は上がってしまうなんて。

「俺は卑怯や。」

そう言うと聖は雪の中へと進み自らを洗う様に雪に打たれようと顔を上げた。

「聖!?」

かなり積もっている雪の中を躊躇いもなく突き進み、立ち尽くして空を仰ぐ。

雪は容赦なく聖の上へと舞い降りてきた。

「もう聞かん。悪かった、貴未。」

「そんなのいいから、戻ってこいって!」

雪の降る量は多い。

いくら無邪気な子供でもそれなりの服装をしていないと大人が連れ戻しそうなほどに景色を染めているのだ。