「多分、聖たちがいなくなってから同じくらいの時間が経ってると思う。」

貴未の言葉に聖は小さくだが何回も頷く。

「なら…俺らの知ってる奴はもうおらへんっちゅうことやな。」

「多分ね。」

少しずつ安堵の表情を浮かべる聖に貴未の胸は切なくなった。

同じ二百年、貴未はその歳月に絶望を感じた、しかし聖は同じ歳月に安堵を覚えているのだ。

よほど大きな何かを抱えてこの国に留まっているのだと否が応にも突きつけられた形になった。

開けてはいけないパンドラの箱はそのままで正解だったのだと貴未は胸の内で静かに頷く。

「今はそれだけでええわ。」

そう呟くと聖は雪景色の方へと視線を移す。

「逃げて、月日が経って皆おらんくなって安心するなんてな。」

白い雪は世界の全てを洗う様にも思えて聖は自分の中の奥の方にある感情を閉じ込めた。

洗われる資格などない黒く汚いもの、それは決して忘れてはいけないもの。

それらを背負って生きていくと決めたあの時の記憶が聖の中で鮮明に焼き付いて離れない。