全てを伝えられなくても部分的になら教えられることも出来るかもしれない、その思いは僅かでも聖に届いているようだった。

「ヒの国には…行ったんか?」

開口一番に出されたのは聖と紅の故郷の名前だった、それと同時に日向の故郷でもある。

聖たちが逃げ出した国の名前を聞くだけで聖の重い何かが移ったような気がした。

「興味本位で少し寄った程度だ。長居はしてない。」

「様子は?」

思いがけない問いが来たことに貴未は一瞬言葉に詰まってしまった。

しかし思いつめて緊張しながら貴未の答えを待つ聖の様子からすると彼にとって重要なことだということに気付かされる。

様子、あの訪れた時の国の様子を貴未は懸命に思い出した。

長居はしていないとはいえ、少し欲を出して中心地と外れの集落と両方に立ち寄って名物を食しているのだ。

聖の知りたいことに食関連は含まれていないようだから貴未は頭の中で差し出す情報の中から削除する。

適当なことは言えない、でもかいつまむとして何を言えばいいのだろう。

「平和に…そうだな、シードゥルサと同じ様な雰囲気で穏やかな暮らしをしているように見えたけど。」