そして貴未も何度かその場面を目の当たりにしたことがあった。

若くして王位に就いたカルサは、そういう輩にとって格好の標的だったのだ。

貴未が居た頃にはカルサも既に見極めがついていたようだったがそれは経験を経てのものなのだと以前サルスが寂しそうに言っていたことも思い出す。

「自分の気持ちを安売りする必要はない。それでいいと思う。」

何故だか貴未は切ない気持ちでいっぱいになった。

カルサの目はそれ以上に切なさを帯び、手が届くものでさえも手を伸ばさずに見送りそうだ。

それはなんて儚い姿だろうか。

「永はきっとヴィアルアイの許にいるだろう。俺もいずれはそこに行かなければならない。貴未の判断は正しいよ。」

カルサは一度は貴未が手を差し出した場所に今度は自らの手を差し出した。

貴未は再び手を出そうとするが、感情の底に沈んでいた疑問が浮かび上がり手を戻す。

その様子をカルサは不思議そうな表情で見ていた。

「聞きたい事がある。」

カルサはそれに目を細めただけで応える。

「永が玲蘭華の方にいないと何で分かるんだ?」