「カルサ。お前…泣いたか?」

貴未の手が拳を握る。

「気持ちを清算するために…ちゃんと泣いたか?」

顔を上げた貴未はやはり涙を浮かべていた。

思いがけない貴未の姿にカルサの構えていた心が少しゆるんでいく。

「憎しみや立場の責任ばかりで誰もカルサの気持ちは教えてくれない。お前の本心はどこにあるんだよ。」

瞳を潤ませて顔を歪ませるその姿はカルサの為に悔しがってくれているようにも見えた。

それでは勘違いしてしまいそうになる、カルサは期待しそうな自分自身を必死に抑えて貴未を見つめた。

考えてもいいのだろうかと、揺らぐ自分に腹が立つ。

「本心ならいつもここにある。」

胸に手をあててカルサはいつものように微笑んだ。

何を言っているのだと、普段となんら変わりない自分を見せることが今の自分に与えられた試練だとカルサは戒める。

「涙も…人の目を見計らって泣いていた。」

それは嘘ではなかった。

千羅の居ない間に、側近や家族やサルスの居ない間にほんの一粒だけでも出して自分を解放しようとした幼少期を懐かしむ。