太古の国の皇子だからと義務付けしていた自分に千羅が切なそうに笑って聞いていたのを思い出す。

彼は寂しげな笑みを浮かべ、憎まれ口を叩きながらもいつもカルサを見守っていたのだ。

やがて貴未の足が動き少しずつカルサとの距離を縮め始める。

視界に入ってくる貴未の靴にカルサの鼓動は速まり冷たい汗をかき始めた。

緊張と恐怖と、今まで貴未に対し感じたことの無い圧力に似た感情に身体が震える。

そして貴未は目の前で立ち止まり、目線を合わすようにしゃがんだ。

ここで逃げても仕方がない、カルサは意を決して顔を上げたがそこに貴未の目はなかった。

貴未は腕の中に頭を入れて膝を抱え小さくなるようにしてそこにいたのだ。

「貴未?」

彼の状況が分からないカルサは名前を呼んで問いかけてみる。

しかし貴未からの返事はなかった。

しばし訪れた沈黙に戸惑いながらも身を委ねて貴未の反応を待つ。

すると貴未からこもった声が聞こえてきた。

「マチェリラの…記憶を貰った。」