いつ忘れてもおかしくない。


(先輩に告白するんだ、先輩に告白するんだ…!!)


だからずっと、心の中で叫んでた。




3年1組の教室。


ガラッと開けると、一ノ瀬先輩1人が、そこにたたずんでいた。


空を見ながら、ぼーっとしている。



「ハァ、ハァ…ッ先輩!」


「あ、オマエなにやってんだよ、こんな時間に。

もしかして部活の練習?

すげーな、今日部活無いのに…」


無邪気に笑って、わたしを誉める先輩。


そんな顔に、心臓がきゅうってなる。


ははっ、コレも病気かなぁ…?


「先輩、好きです。」


躊躇いもなく、わたしは堂々と言った。


「…は、オマエも、かよ。


オマエは違うって思ってたんだけどなー…」


違う?

なんのこと?




「悪ぃがお断りだ。

オレはお人形じゃねーんだよ。

顔だけで選んでんじゃねぇぞ。

イケメンなら他当たれ。」



そう言って教室を出ようとする先輩。


わたしはその前に立ちはだかった。



「違います!

わたしは先輩のことほんとに好きです!

顔でなんか選んでない!!」




そう叫ぶと、先輩の顔がいっきに冷たくなった。






ドンッ






とっさに目をつむる。


殴られると思ったから。





だけど先輩は、わたしの顔のすぐ横の壁をたたき、ずい、と顔を寄せた。



息がかかるほど近い距離に、思わずどきどきする。



「じゃあどこが好きか、顔以外で上げて見ろ。

あ、優しいとかはナシな。


オレ優しくねーから。」


「…確かに優しくないですけど。」


「なんだと?」


「あ、いえ…なんでも。」


「早く言えよ。」



そうせかされて、言葉が詰まってしまう。




だって、好きなところはたくさんあるもん。



「どうした?

オレのこと好きなんだろ?

だったら言えるよな?」


「たくさんあって、どれから言えばいいかわかんないです。」


「顔しか見てねーやつは、だいたいそうやって言うんだよ。」


「違います!

本当に、たくさんあるんです…!」


「オレの全部が好きってか?

はっ、笑わせる───…「全部じゃないです!!

先輩の嫌いなとこいっぱいあります!!」


あ、しまった。


「なんだと?」


「だって、自分のこと大切にしない所とか、

いつもふてくされたような顔してるところとか

…です。」


「じゃあ告白なんて…」


「それ以上に先輩のこと好きなんです!!!」


「だからどこが…」


「わたしが先輩のことを好きになったのは、体験入学の日でした。」


「一目惚れってか?

やっぱり顔…」


「最後まで聞いてください!!」


「お、おう…」


「体験入学のとき、最初はキーボードの音に魅力をかんじました。

そして、それを楽しそうに弾く先輩の顔が忘れられなくて入学したんです。


ホントに、それだけでした。


でも、先輩と一緒に部活やったりパシられたりするうちに、

だんだんと先輩のこと好きになっていったんです。


たしかに先輩は優しくないし、厳しくて強情でオレ様で頑固だけど」

「おい、そこまで言う必要なくねぇか?」

「はっ、スミマセン、つい。」

「ついってなんだ、ついって。」

「確かに先輩はちょっとクセ者だけど、

それでもわたしは、あのキーボードを弾く時の顔が大好きです。」


「…どうせ、嘘だろ。

てか、なんでこんなに時間がたってから言いにくんだよ。

前から自分の気持ちに気付いてたんだろ?」



「そ、れは…」



「はぁ────…分かった、いいよ、もう。」


「なにがですか?」


「…オマエ、もうオレに話しかけんな。」



そう言い捨て、鋭い視線をわたしに向けてから、先輩は教室を去っていった。