符和が去った後─────…



「…あたしの符和ちゃん、追い詰めたね…?」


東は般若の面を付けたようだ。


「…当然のことを言ったまでだ。

アイツはステージで歌詞忘れるほどしっかりやってねぇ。

そもそも、練習してるとこあんまみねぇ。

だったら、真剣にやってる奴らが可哀相だから、退学しろと言ったまでだ。」


般若に屈しないところ、一ノ瀬は相当怒っているようだ。


しかし、東がため息をつき説明することで、今度は罪悪感が彼を襲った。



「はぁ─────────…


アンタ放課後さっさと帰ってんでしょ。

そん時符和ちゃんはいた?」


「いたけど。」


「符和ちゃんは、みんな帰った後でちゃんと練習してる。

アンタ気付かない?

符和ちゃんが前より息が続いてて、音質もよくなってるって事。」


「そう、いえば…」


「さっきのアンタ、最低だったよ。

少なくとも符和ちゃんは、みんなが帰って三時間は学校に残って練習してる。

それに、夜は必ずジョギングをする。

部屋でもお風呂上がりとか、暇なときは腹筋や腕立て伏せなんかやってるみたいだよ?」


…何気ない顔でさらっと言ったが、コレはすべて符和につきっきり(ストーカー)して発見した事実である。



「だから、符和ちゃんはきっと、誰よりも音楽に真剣に取り組んでる。


それを、符和ちゃんより努力してないアンタが、真っ向から否定したのよ。

ホンット最低ー。」


「うっ…」



どうやら怒りが消え、般若が利くようになったようだ。



「さーて、符和ちゃんどうする?」


「戻ってくるのを───…「アンタが最低なこと言うからでしょうが。」


ですよね、と言った顔でうなだれる一ノ瀬。


そして、渋々符和が走り去った方向へと駆け出したのだった。