この音…



後ろを向くと、一ノ瀬先輩が舞台袖から出てきてキーボードを弾いていた。




そして、メロディーを弾きながら歌いだした。




『綺麗な折り花 なんて美しく儚い

まるでわたしの恋 そのままの形にしたみたい

あなたが 好きでした…』



一ノ瀬先輩は最後まで歌い、なんとかその場は防げた。


そのイベントは、1バンド一曲だったから、それで終わりだ。





舞台袖に降り、わたしはほっと息をつく。



と同時に、ものすごい怒号がとんできた。




「オマエどういうつもりだ!?

なんで歌わなかった!!!

自分の歌だろ!!

歌詞忘れたんじゃあるまいし…!

なぜ、何で歌わなかった!!!」



いっきにまくし立てられて、涙が浮かんだ。



「ちょ、俊…

言い過ぎだって。


誰にだって緊張して声が出なくなることくらい…」


「コイツが今まで緊張で歌えなくなったことがあるか!?

オマエ真面目にやってねーんじゃねーの!?




オフザケでやってんなら退学しろ!!!!!!!!!!!」




確かに、歌詞を忘れたわたしが悪い。


でも、そこまで怒らなくても…



「…し、…なに、ですか…?」



「なんだ!?

言い訳してんなら────…」



「わたしそんなに真面目にやってないように見えますか!!!!?」




そう言って、ステージに登った衣装のまま舞台袖を飛び出した。