この本は私が好きな小説家のデビュー作でもう絶版だった。

ずっと欲しくてネットで探したり古本屋を何軒も探し回ったりしたけど見つからなかった。

もう諦めてたけどまさかこんなとこで出会うなんて…


「これ、貸してくれない?
ずっと読みたかったんだー!」


少し興奮気味に廉くんを見た。


「ね?お願い!」


私はパンッと胸の前で手を打った。


「…いいよ」


数秒の間があって廉くんは承諾してくれた。


「ありがと!」


私は本を抱きしめて笑顔でお礼を言った。

なのに廉くんはプイッとそっぽ向いてしまった。


「ごめん、本当は嫌だった…?」


「そんなんじゃないから。
いいから。貸す」


廉くんはこちらを向かずに言った。
よく見ると頬が少し赤い気がする。


―ピピピッピピッ


勢いよくスマホの音がした。
この音は私のだ。


「ごめん。出ていい?」


「どうぞ」


廉くんの了承を得て私は電話を取った。