それから、たくさん話した。

出会いの経緯とか、学校のこととか…。


それから、ソワソワし始めた仁が、何度も口を開こうとしては閉じ、しては閉じしてるから、じれったくなって声をかけた。


「ねえ、お二人さん。こんなオバサンと、若造の夜をこのまま過ごしていいのかしら?仁、やりたいことがあるなら、言いいな。回りくどいのは好まない」



一瞬驚いた顔をした。
が、すぐ冷静を取り戻し真面目な顔になった。


男の顔。




「千秋さん、俺はコイツと、希と暮らしたい。希の両親には許可をもらった。希には、俺らのチームのことで、危ない目に合わせてる。だから、俺が希を、チームの頭として、1人の男として守り抜きたい。お願いします」



男になった。大きな、強い目。

泣き虫だったあの頃とは違う。
仁は、あたしの知らないところで、1人の大切な人を守れるぐらいの男に成長した。




あたしの答えは一つしかない。


「仁、まだ子供。本当に守れる?」


希ちゃんが、心配そうに見守る中、顔色を変えず、ただ真っ直ぐに見つめ、頷く仁。



「最初から賛成よ。部屋はあたしがオールセキュリティシステムのマンションを用意する。家賃はいらない。食費と光熱費は仁が払うのよ」



話はOKしたというのに、今度は希ちゃんまでも真剣な顔になり、二人揃って


「「ありがとうございます!!!」」


なんて言うから、よっぽど覚悟して家に来たんだな、と思った。



っというか、もともとそういう時のために、部屋は用意してあるのだけど。


それは、今日が終わってからのサプライズにしよう。



「さーて、若いのは出てった出てった!ラブラブな夜へいってらー」



手をつないで「お邪魔しました」という声を背中に、部屋の片付けを始めた。


仁が、溺愛ね…。



携帯を取り出し、マンションのオーナーにかける。


初期設定のままの呼び出し音。


2コールで出たオーナーにひとこと。



「仁の奴、女連れてきた」


『了解しました。仁がですか。楽しみですね〜。…いつからになさいますか?』


「明日からでも、使えるように頼むわ」


『かしこまりました。では』



仁と、希ちゃんの、最高のクリスマスプレゼントになるといいな。



翌日、12月26日。

天気は快晴。



目の前には、朝一の電話で呼び出してやった仁カップルと…



「ここ、クリスマスプレゼント。はい、鍵」




オールセキュリティシステムマンション、Before LIFE。



口をあんぐり開けてる、2人に声を掛ける。


「ここの最上階だから、自由に使っていいわ。なにかあったら、連絡するのよ?じゃ、楽しんで」


くるっ、と回って家への道を進むあたしの背中に、2人の大声が届いた。



「「千秋さん、ありがとうございます!俺ら(私ら)は結婚しますから!!」



ばーか。
叫ばれるこっちが恥ずかしいっての!


結婚式は呼びなさい。そう呟いてBefore LIFEを後にした。




仁が引っ越して、早一ヶ月。


とくに何も変わらない平穏な日常。
変わったことといえば、あたしが希って呼ぶようになったことぐらい。

仁と希は、週に一度は家にご飯を食べに来てくれる。


ほんと、娘ができた気分で、嬉しい限り。



今日は、ある用事で駅前に来た。


平日だっていうのに、相変わらずの賑わいだ。


人混みが苦手なあたしとしては、すぐさま帰りたい衝動にかられる。




用事は済んだし、後は帰るだけ。


とは、思ったものの…



やけに人が多すぎる。

と!く!に!ギャルのお姉様方と、不良のお兄様方。


群がってると、邪魔なのよね。本当に。


立ち止まってため息をついてると、
誰かが、あたしの方にぶつかった。


持っていた鞄を誤って肩から落としてしまった。


中には大事な書類が入ってるのに…。

見られたりして、
めんどくさいことにならないといいけど。



書類を拾おうと、手を延ばすも…。

間に合わなかった。



相手は、その書類を見て、固まる。



周りにいた、大柄な仲間たちが、「どうした?」と問いかけるも、

反応なし。



まさか、龍神会の書類…?


まさかね〜、そんなことあるわけ。



「なあ、お前さ、なんでこんなの持ってんだ?」



はあ…やっぱか…。



あたしが落とした書類は、龍神会という暴力団についてのもの。


拾った相手は、龍神会の…幹部だろう。

龍神会の幹部は、左手首にプラチナのブレスレットを着けている。



もっと、早く気づけばよかったわ。



ま、見られたものはしょうがない。
なんとか、誤魔化さないとね。



「ちょっと、ここじゃ話しにくいだろ」



仲間の男があたしに声をかける。



んー、確かにまずいかも。



「じゃあ、そこのファミレスでいいですか?」


「あぁ」




作品を評価しよう!

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア