朝6時半前。
あたしは自宅の門扉にへばりつくようにして、隣家を見張っていた。
1月の冷気が目にしみる。
いつもならまだ夢の中だっていうのに、どうしてこんなことしなきゃいけないんだろう。
思わずため息が漏れる。
と、その時、
「行ってきます」と男の声がした。
きた、望(のぞむ)だ!
門扉からそうっと顔を出すと、隣の家、櫻井(さくらい)家の前に見慣れた男の姿が見えた。
うちの高校の制服である黒の学ランにモッズコートを羽織り、右肩に白と青のスポーツバッグを背負っている。
望は学校へと、背を向けて歩き出す。
見つからないようにそのあとを付けようと、一歩踏み出そうとした。
しかし、後ろから話しかけられた言葉に、その場に縫いとめられてしまう。
「真央(まお)、何してるの」