帰る時間になっても、妃奈ちゃんは途中まで俺と一緒に帰ろうとしていた。
「すっかり気に入られているじゃねえか。」
「だろ?」
祥太郎でなく、寂しさを浮かべた妃奈ちゃんの方を向きながら答えた。
「妃奈、もう遅いから帰るよ。」
玲奈に言われた妃奈ちゃんは素直に頷いた。
「バイバイ、妃奈ちゃん。」
俺の挨拶に、妃奈ちゃんはこう答えたんだ。
「…妃奈でいいよ。」
今日出会った時に俺が言ったのと同じように、でも少し子供っぽく。
「そっか。
またな、妃奈。」
その後に綾香や祥太郎が“妃奈ちゃん”と呼んでも、妃奈は同じ事は言わなかった。
俺は相当気に入られた事を純粋に喜んだ。
玲奈が妃奈を過保護なまでに可愛がっている気持ちもなんとなく理解できたし、それも仕方ないと思えた。
妃奈がそれをどう思っているかは知らないけど。
いよいよお別れの時間が来て、俺らは玲奈と妃奈を駅で見送った。
「じゃあ、また今度ね。」
玲奈が言うと、祥太郎、俺、綾香の順番で挨拶を返す。
「じゃあな。」
「バイバイ。」
「またね!」
3人とも、玲奈だけでなく妃奈にも言っていた。
この後、妃奈が玲奈に色々言っていたのは後で知った。
色々というのは、また一緒に遊びに連れてってほしいとか、俺らの家に行ってみたいとか、そんな感じの事だ。
やはりそう言われると嬉しい。
その後、妃奈の願い通り、5人で出かける機会が増えた。
綾香にとっても祥太郎にとっても俺にとっても、妃奈は妹のような存在になっていたし、玲奈は妃奈が一緒にいる事に安心していたし、妃奈も楽しそうだった。
だから何も問題なく月日は過ぎていった。
だが、その関係もやがては変わっていく。