玲奈が彼女を連れてきた理由はこうだ。


玲奈の両親が今朝から旅行に行ってしまい、玲奈も遊びに行くとなると妃奈ちゃんが1人になってしまう。


小学生の妹を1人で家に置いとくなんて事は絶対に出来ないと思った過保護な玲奈は、とりあえず妃奈ちゃんを連れてくる事にした。


まだスマホどころかケータイさえあまり普及してなかったから、どうしても行けない場合以外はドタキャン出来な
い時代だったから、来ないわけにもいかない。


そんな玲奈の苦渋の選択といったところだろう。


だが妃奈ちゃんにとっては、知らない高校生の集まりに連れてこられたわけで、不安に違いない。


実際、妃奈ちゃんは少し怯えている。


俺はしゃがんで、妃奈ちゃんと目を合わせた。


「妃奈ちゃんって呼んでいいかな?」


彼女は小さく頷き、俺は微笑んだ。


「初めまして。
玲奈の友達の北条昴です。
宜しくね。」


俺は妃奈ちゃんに手を差し伸べ、握手を求めた。


彼女はおずおずと手を出して、俺の手にそっと触れた。


俺がその小さな手を優しく握ると、妃奈ちゃんは初めて口を開いた。


「…昴さん?」


「昴でいいよ。」


そこで彼女はやっと笑ってくれた。


自ずと俺も嬉しくなった。


その日一日、俺らは5人で遊んでいた。


時間が経つにつれ、妃奈ちゃんは俺らに懐き、笑顔が増えていった。


嬉しい事に、綾香よりも祥太郎よりも俺のことを1番気に入ってくれたみたいで、歩く時も座る時も玲奈と俺の間にいた。