「詩織。」


呼ぶと振り返りなぁに?と答える。


「お前、仕事辞める気あるか?」


いきなりの発言に詩織は目をまん丸にする。


「え、なんで、ですか?」

「神山さん!」


俺の質問に慌てたのは伊島だ。

詩織の答えに被せるように俺の発言を止めようとする。


「だってお前、もし妊娠したら仕事続けられないだろ?」

にっこり笑いながら言うと、途端に詩織が真っ赤な顔をする。


「あら、妊娠するような事してるんだ。神山課長、避妊しない派?」


菊池の鋭いツッコミに更に笑顔で答える。


「いや、ちゃんとゴム使う派。
でも詩織とは結婚するからさ、もう使わないって決めたんだよ。

ていうか、使わなかった、昨日。」



その言葉を聞くなり、伊島は真っ赤になるし、菊池は口をあんぐり開けて言葉が出ないし。


詩織に至っては恥ずかしいのか背中を向けてしまった。



「普通言わないでしょ!バカじゃないの、課長!」


菊池のするどいツッコミが場を和ませた。

わざと言ったんだよ、俺は。


「ホントのことだからさ。
こういう気持ちになったの、詩織が初めてなんだよ。」



本当の事だ。



今までは薄っぺらな身体だけの関係ばかりだった。


ヤりたいからヤる。


相手が欲しいとか、愛してるとか、考えたことすらなかった。


でも、詩織は違う。


彼女の全てが欲しい。
どうしたらいいのかわからなくなるほどに、彼女を愛してる。


抱きしめた身体が俺に応えるように色づき、しなり、俺を受け入れてくれるそこが潤うのを見るたびに、壊したくなるほどに愛しているんだ、と痛感する。



「だから、避妊しなかった。
これから先、詩織と子供と、幸せになりたいと思ったから。」


だから。


俺のものだという証を。


彼女の身体に残したんだ。