「本人はまだ瑞季しか知らないと思ってると思いますよ。

…神山さん。

このままじゃ、池永の心が壊れてしまう。」


…わかってる。

わかってるんだ。
俺が悪いんだって事も、詩織は何も悪くないんだって事も。


「池永はあなたの過去の女性達に謝ってたそうです。

好きになってごめんなさい、でも彼は渡せないって。」


「伊島、もしかして詩織に嫌がらせをしてたのは谷川由梨か?」


思い当たる数々の出来事。


過去に身体だけの関係を持っていて、唯一彼女になりたいと言い出して面倒になって手を切った女だ。


…そして、中崎めぐみの従兄弟。



「そうです。」


伊島が返事をしたところで詩織と菊池が店から出てくる。

「またあとで話す。」


伊島の肩を叩きそう小声で言うと、ニコニコしている詩織の方へ歩き出す。


「神山さんの声、耳元で聞いたら殺人的効果ありますね…ヤバい、俺がオトされるとこだった!」


そう茶化すと奴は小さく「わかりました」と耳打ちした。


「祐太朗さん!このお店可愛いもの沢山ありますよ!」


嬉しそうに笑う詩織は、今出てきた店が気に入ったのか興奮気味にそう話す。


「欲しいものがあったのか?」

髪に手をやり手遊びをしながら問うと、うん、と頷く。


「カトラリーとか食器とか、雑貨がすごく可愛くて。揃えたいです!」


「じゃあ買うか?うちにあるの全部やりかえようか。」


そんなワガママ、いくらでも聞いてやる。
お前が辛かった分、俺が笑わせてやりたい。


「そんなの勿体無いじゃないですか!」

そう言う詩織に俺は言う。


「お前が欲しいもの、なんでもあげたいんだよ。他にないか?」


頬に触れ優しく撫でると、くすぐったそうに肩を竦める詩織。


「あー、甘々だ、課長。
結構ベタ惚れなんですね。意外だわ。」

菊池が横ヤリを入れる。

「俺はお前がSだったのが驚きだったがな。」


「そんなSなオンナがイイっていうMな男がいるからね?」


ふふん、と笑い腰に手を当てる菊池がなんだか以前より楽しそうに笑うようになった気がした。


「お前ら、上手くいってるんだなぁ。」

「当たり前です。」


言い切る伊島。
得意満面で踏ん反り返った彼の背中をバチん!と菊池が叩く。


「イテっ‼︎」

「調子に乗るんじゃないわよ、智。」


年下の菊池に振り回されている伊島。


でも、なんだかいい雰囲気だ。