三好 小雪(みよし こゆき)
わたしはモテる。
顔も悪くはなくて、スタイルも悪いわけじゃない。
「好きです!!付き合ってください!」
ほら今だって、告白されてる。
別に断る理由はない。
「いいよ」
答えはいつも決まってて。
告白してきた見ず知らずの人は、顔を真っ赤にして微笑んでその場から去っていった。
「はぁ・・・」
わたしは小さなため息を漏らした。
「またかよ」
そう声がして、振り返ってみるとそこには、佐々岡 悠馬(ささおか ゆうま)がいた。
こいつとはいわゆる幼なじみというのもで、まぁ、腐れ縁とでも言っておこうかな。
「何?盗み聞き?趣味悪いよ」
そう言ってやると悠馬は顔を真っ赤にして、反論してきた。
「ちっ、違うっ!俺が先にここにいたの!」
ぷんぷん怒りながら言う悠馬に自然と笑みがこぼれた。
「はい。はい」
そう軽く流しておく。
そうすると悠馬は急にまじめな顔になって、わたしの前に来た。
「やめとけよ。ああいうの。」
「何がよ」
本当は分かっている。
どうせ、相手の人がかわいそうとか言うんでしょ。
「小雪、おまえ自分で自分の価値下げてんじゃねえよ。」
そう言って自分の頭をガシガシとかく。
照れてる証拠だ。
「ま、あんまりそういうのやめとけよ」
わたしの頭に手を置いてから悠馬は去っていった。
放課後になって、さっきの告白の人がわたしのクラスにやってきた。
「今日、一緒に帰ってもいいかな?」
顔を真っ赤にしながらわたしに問いかける。
別に断る必要なんかないんだけど。
そのとき遠くで手を振っている人間がいた。
しかもわたしに。
その人物はわたしのところに走って来て、にこりと笑った。
「小雪ちゃん、一緒にかーえろ」
そう言ったのは一応親友の、磯島 美幸(いそじま みゆき)
こいつ、絶対わざとだ。
タイミングを見計らって来たな。
「ごめんね。今日は美幸と帰るね」
そう言うとその人は苦笑いをして「分かった」と言った。
「よかったぁ。小雪があんな男と一緒に帰らなくて。」
悪魔の微笑で言う美幸。
やっぱりわざとだったんだ。
「それに、小雪あの人の名前知らないでしょ」
図星をつかれた。
「そういうのいい加減にやめたら?」
悠馬と同じ事言ってる。
「男の子がかわいそう」
理由は違うけどね。
「ばいばい」
そう言って美幸と別れた。
学校から家までの距離はそう遠くない。
だから、あの学校を選んだともいえるけど。
――ガチャっ
家に帰っても誰もいない。
まあ、当たり前か。
一人暮らしだし。
――ピーンポーン
インターホンがなる。
誰だろう。
わたしの家に人なんてなかなか来ないんだけどな。
「はい。」
玄関の扉を開けるとそこにいたのは。
「お母さん・・・」
久しぶりに会う母だった。
「久しぶりね。小雪」
そう一言言って家にずかずかと入る。
「意外に綺麗にしてんのね」
酒と香水の匂い混ざったにおいがする。
家に入らないで欲しい。
「何しにきたの」
お母さんはどさっとソファーに座る。
「あんたの様子見に来たの。」
どの面下げてだよ。
そう言いたいのを堪える。
お母さんはタバコの箱を出す。
「やめて。タバコの匂いわたし嫌いなの知ってるでしょ」
そう言うとお母さんはわたしを睨んだ。
わたしの家なんだけど。
渋々タバコの箱をしまう。
「早く帰ってよ」
「わたし一応母親なんだけどー、あんたの」
「あんたの」を今日強調して言うお母さん。
「わたしはあなたのことを母親とは思ってない。」
きっぱりと言い切るわたしにフフッと笑ってわたしを見た。
「でも、あんたの体にはわたしの血も入ってるのよ」
そんなこと分かってる。
「自分が何したかわかってんの」
睨んで言うとため息をついて
「わかった。」
そう言って玄関に向かって歩いていった。
そして振り向いて
「また来るからね」
とタバコで黄ばんだ歯を見せて笑った。