「好きな人ほしーな……」
そう呟いて、ため息をつく。
中学生の頃はいたんだけど、彼女いるって聞いて諦めたし。
……彼氏、できたことないし。
彼氏ほしいなんて言わないから、恋だけはさせてくれー!!
「好きな人、欲しいんだ」
振り向くと、田野が笑いながらこっちを見ていた。
「え、田野、部活は?」
「タオルここに忘れたから」
そう言いながら椅子の背もたれにかかっていたタオルを首に巻いた。
………。
「なに?」
「…え?」
「まさか、俺に見とれてた?」
いたずらっ子のような顔をして、あたしをみてくる田野。
顔が赤くなるのを感じたから、とっさに窓の外へ視線を戻した。
「俺、かっこいいもんなー」
「は?あんたなんかに見とれるわけないじゃん」
「ひどい…」
いつものように泣き真似をしはじめた田野の方を向いて、一回、頭を叩いてからまた窓の外を見た。
「なに見てんの?」
「…好きな人」
「え?おまえ、好きな人いんの?」
だれだれ?と、田野があたしに並んで窓から顔を出した。
「すっごいかっこいいの。田野より何千倍も!」
それはよかったですね、と田野がさっきのにやけ顏で見てくる。
「うん、よかった。間違えてあんたみたいな人、好きにならなくてね」
「そんなひどいこと言うんだ、俺、かわいそう」
田野がまた泣く真似をする。
中学生の頃から全く変わらない。
本当に泣くことはなくなったのかな。
それだけしか、成長してないよね。
でも、そこが、良いのかも。
田野が変わらないから、あたしもありのままでいられるのかも。