ぼっちな彼女に溺愛中


好きな人に気持ちを伝えること、告白。

今までされたことはあっても、したことなんてないし。

ここまで勇気がいるって、されてきた方としては知らなかった。

・・・俺、やっぱり最低だったな。

結構、なんの悪気もなくばっさりフってきた。

玲二が言うには、酷いフり方をしてきた。

今では尊敬する。

本気じゃないにしても、今までの関係が変わるかもしれないっていうリスクを彼女たちは犯してまで、俺に告白をしてくれた。

すげえな・・・。

俺にできるのか?

玲二が隣で小さくため息をつく。

あきれられているのがわかる。まあ、そりゃそうだろう。

「他の奴にとられても知らねーからな。」

その言葉に、ハッとする。

「まあ、あれはとられねえか。」

そんなバカにしたような呟きも、俺には聞こえない。


誰かに、盗られる・・・。

愛樹が誰かのものになる。

和樹が彼氏だと勘違いしていたとき、毎日が地獄だった。

あの日々が本当にやってくるってことだ。

・・・無理、耐えらんねえ。おかしくなる。

でも、俺がこのままだったらいつかそうなるかもしれない。

愛樹の顔が、なにかの拍子に他の男にバレたりしたら、愛樹がモテだしたら・・・

やばいやばい。焦ってきた。

それは嫌だ。絶対いやだ。

愛樹は誰にも渡さない。

そのためには・・・・

いや、でも。

頭の中がぐるぐるする。

もともと頭脳派じゃないし、頭痛くなってくる。

愛樹の彼氏になりたいけど、そのためにはその前に乗り越えるものがたくさんありすぎる。

恋愛って難しいな・・・とか、女子みたいなこと考えたり。

結局俺ってへたれなんだな~

本当、まえまでそんなこと全然気づかなかったわ。

けど、いつまでもへたれで終わってたらだめだよな。

俺は一人、自分の中で腹をくくった。


藍田 章吾くん。

クラスの人気者で、周りの空気を読むのが上手でみんなを楽しませることが上手で

いつも、みんなの中心で笑っている人。

みんなのあこがれの存在。

彼にあこがれているのは、私も同じだった。

純粋なあこがれ。

私と彼は正反対だから・・・。

友達をつくることもできず、誰かに話しかけることもできず

ずっと一人でいる私と、たくさんの友達に囲まれている彼。

私も彼みたいになりたかった。

あんな風に、誰かを笑顔にできる存在になりたかった。

影からいつも、楽しそうに笑い合うみんなを見て、

いいな、と思いつつも一歩踏み出す勇気もなく、そんな自分が嫌だった。


『ぼちたにさん』

彼が私をからかってつけてたあだ名。

嫌だなって思わなかったわけじゃない。

独りぼっちでいることは、恥ずかしかったし、さみしかった。

でも、それまでクラスで空気みたいだった私が、初めてみんなの目にうつった瞬間でもあったってちょっとしてから気づいた。

小学校の時から、先生でさえも忘れてしまうような存在。

でも、このあだ名を得て、みんなからたとえバカにされる存在になっちゃったとしても

忘れられるよりいい。

「今日もぼちたにさん、ぼっちじゃん。」

って笑われても、例え相手が悪気しかなくても話しかけてくれることが、私はうれしくて。

自分でも暗すぎるなっておかしくなっちゃうけど、そう思うとあだ名も嫌いじゃなかった。

藍田くんに感謝した。


それでも彼は、私にとってはとてもとても遠い存在。

可愛い女の子でさえ、彼に容易には近づけない。

藍田くんはどこか周り、特に女の子と距離をとってるようなところがあって、なんだか壁みたいなものがある。

彼の周りはみんな笑顔で、彼ももちろん同じように笑ってるんだけど、

どこかその笑顔が上辺だけな感じもする。

そんなこと思ったけど、私には何にもできなくて

ただ、彼がくれた私のクラスでの居場所を大切にしながら、

静かに

やっぱり、相変わらず一人ぼっちで私は過ごしてきた。

中学までよりは、ずっとずっとクラスにいることが嫌じゃなくなった。

自分の居場所がないって感じることもうんと減った。

藍田くんのおかげ。

一人で本を読みながら、

いつか・・・・彼にお礼が言いたい。

笑われるだろうし、変な奴だと思われるだろうけど

それでもちゃんと感謝の気持ちを伝えたい。

そう思っていた。


「愛樹?」

名前を呼ばれて彼を見る。

テストが終わったというのに、彼は相変わらず図書室へ来て

もう特等席と言ってもいいほど恒例の、私の向いに座っている。

「ボーっとしてただろ?」

含み笑いで、私を見るまっすぐな瞳。

「なんか考え事でもしてたの?」

「あ、えっと・・・ううん。なんでもない。」

彼は、私の答えを聞いて軽く鼻を鳴らすとまたノートに視線を落とした。

そんな彼を見て不思議に思う。

あのころ、一人でいた私からは考えられないこの状況。

影から見ていたクラスの人気者の彼が、今の目の前に座って勉強してる。

どうしてなのかな。

図書室で彼と会ったあの日から、私の生活は一変した。


気づけばいつも、彼が隣にいてくれる。

ついこの前まで私は一人ぼっちだったのに、

彼といると、私の知らない世界がある。

初めて、友達と下校した。

初めて、クラスメイトとカラオケに行った。

初めて、友達と喧嘩した。

初めて、仲直りもした。

初めて、友達と休日に待ち合わせをした。

初めて、勉強会した。


私のスマホがなる。

あ、理奈ちゃんだ・・・。

そういえば・・・初めて、女の子の友達ができた。

初めて、ラインも交換したし。


全部全部、藍田くんが隣にいてくれるから、なんだな・・・。

独りぼっちだった私を、藍田くんが連れ出してくれた。

この短い間、彼のおかげで私はとっても楽しい日々を過ごしている。

今までの人生で、一番。



最近、この生活に慣れてきてる自分がいて、怖い。

恐れ多いよ・・・。

藍田くんは、きっとただの暇つぶし程度にしか考えてないのに、

誰かがいてくれる、

ううん、藍田くんが隣にいてくれるこの生活が、なんだかずっと続く気がしてる。

彼の隣は心地いい。

最初はぎこちなかったけど、今は自然と彼の隣にいられる自分がいる。

落ち着くし、なんだかしっくりくる。

藍田くんはいつも、楽しい話をしてくれて、いつだって私の知らない世界へ連れ出してくれる。

彼と一緒に見る景色は、いつも一人で見慣れてるものでも全然ちがう。

一緒にいることに慣れて、一緒にいてくれるのがあたりまえになってきてるのが怖い。

・・・藍田くんは、いつまで私のそばにいてくれるんだろう。

テストが終われば、彼はいなくなっちゃうと思っていた。

でも、こうやって相変わらずここにいる。

それにすごく安心して、うれしく思う私。

けど、ならいつまで・・・?

人間は、先がわからないと不安になるってなにかの本に書いてあった。

将来自分がどうなるかわからない状況が一番不安になるらしい。

そのとおりだと思う。

藍田くんがいつまで私のそばにいてくれるのか、わからなくて不安。

たぶん、飽きたら突然いなくなっちゃうんでしょ?

それっていつなの?

飽きられないようにすれば、その日はこないのかな?

でも、私なんかになにができるんだろう。

最近、そんなことを考えている。