「章吾!」
「ん?」
名前を呼ばれて振りかえると神矢玲二(かみやれいじ)がいた。
「二組と合同のカラオケ、おまえも行くだろ?」
二組か~。
「俺、パス。」
「え?なんで?」
「二組にひとり、しつこいのいるから。」
「おまえ、またフったの?」
「うん。」
あいつ、マジしつこい。
俺、『彼女とかいらない』って何回も言ってるのに
ずっとつきまとってくる。
今日も、合同って知ってるなら来てるだろうし。
「モテる奴は余裕でいいね~。」
ニヤニヤする玲二がうざい。
「入学して2ヶ月で3股かけてる奴に言われたくねーよ。」
「ちょっ!馬鹿。声でけえよ!」
玲二は、途端に焦りだし、周りを伺う。
そして、彼女たちがいないのを確認してホッとしたようだ。
「おまえ、めんどくさくねーの?」
3股とか聞いてるだけでめんどくさそう。
女子って束縛激しいし、すぐ気持ち押し付けてくるし。
だから、付き合いたくないんだよ。
友達は別に全然いいんだけど。
「全然!俺、器用だから!」
得意げに笑顔を向けてくる。
「変なとこでな。」
女扱いが器用でも、ちっともうらやましくねーし。
「うるせー。
てか、どうしようかなー。人数たりね~」
そこまで困ってなさそうな玲二から何気なしに視線を逸らすと
一人の女子に目がいった。
今日も、ぼっちだし。
マジ笑える。
まだ1年なのに、休み時間まで勉強してんのかよ。
てか、あんな分厚いめがねに、
しかも、あんな長い前髪でちゃんと教科書見えてんの?
「なあ、玲二。」
「なに?」
「人数に困ってんならさ~、ぼちたに誘えば?」
「はあ?おまえ、ふざけんなよ~」
ぼちたにの名前を出した途端、鼻で笑う。
「あんな奴連れてったら、俺の株がた落ちだから。
彼女に嫌われちゃったらどうすんの?」
「ははっおまえ最悪~」
「はじめたのは、章吾だろ!」
とか言いながら笑いあう。
ぼちたにの名前だすと、ある意味その場が明るくなる。
だって、誰一人反論しない。
ぼちたには、みんなが馬鹿にする存在。
ああいう奴がクラスに一人いたら、本当楽。
話題がつきたら、名前だせばいいんだから。
1年1組1番 藍田章吾(あいだしょうご)
1年1組2番 市谷(いちたに)
名前は知らない。
俺たちは、入学当初出席番号の関係で席が前後だった。
入学初日、プリントを配る際に後ろを振り返った俺は絶句した。
胸まである少し茶色に近い黒の長い髪。
それはいい。
ここからが問題だ。
その髪は前をおでこだけじゃなく目の半分まで覆ってる。
しかも、分厚い銀縁のめがね。
本当の目の形やおおきさなんて、わかるもんか。
とにかくもっさりしてて。
しかも、制服もちゃんと規定守ってきてるの、あいつ以外見たことない。
女子は足見せてなんぼだろ。
なのに、ひざ下までスカートで隠して。
土俵にもあがれてないって、まさにこのこと。
そして、あいつはいっつもぼっち。
てかまともに声すら聞いたことない。
だって、しゃべってるの見たことないもん。
そこで、俺が名づけた。
『ぼちたにさん』
本人を前にそう呼んでも、あいつは何も言わない。
返事もしないし、拒みもしない。
マジ暗い奴。
ありえねえ。
あんなのが現代にまだいたなんて。
漫画の世界だけにしといてくれよ。
放課後。
「ええ~章吾~~。行こうよ~。」
やけに語尾をのばしながら俺の腕に胸を押し付けてくるのは
俺がカラオケに行くのを断る原因をつくったあの女。
「章吾いないとつまんない~!」
「うっせえな。じゃあ、おまえも行かなきゃいいだろ?」
「え?それって、行かずに二人でデートしよってこと?」
はあ?
どうしたら、そんな都合のいい解釈できるんだよ。
「一人でどっか行け。」
「章吾冷たい~。由美(ゆみ)、章吾といたい~。」
「由美ちゃん、俺は?」
玲二が俺を助けてくれようとしたのか、由美に言う。
「玲二くん、かっこいいけど、手早そ~。」
「あはは。それは否定できないかもっ」
「やっぱり~。由美、好きでもない人とシたくないし!
でも、章吾とならシてもいいよ?」
とか言いながら、今度は抱きついてくる。
・・・・うっぜえ。
「暑苦しいんだよ、やめろ。
だいたい、おまえとヤるほど女に困ってねえよ!」
俺はそう言い捨て、鞄を持って教室をでた。
「ひどい!!!」
とかなんとかって声が聞こえたけど、余裕でスルー。
つか、あっちから言ってきて断られたら『ひどい』とか。
自分勝手にも程があるだろ。
俺はそのまま帰ろうと思った。
むしゃくしゃする。
ホント、ああいうの一番うざい。
顔だけでよってきたくせに逆ギレとか何様だよ。
俺はめちゃくちゃ苛ついていた。
あ・・・。
玄関から出ようとしたとき、ふとぼちたにを見かける。
あっちは、図書室?
今日もお勉強か?
ご苦労さん・・・・。
そのまま帰ろうと思った。
でも。
ちょっとからかってやろっかな~。
マジむしゃくしゃするし。
ぼちたにで憂さ晴らしてから帰るか。
ガラガラガラ・・・・
図書室は静まり返っていた。
だれもいないような錯覚に陥るくらいに。
図書室なんて入ったの何年ぶり?
少なくとも、高校になってからははじめて。
ぼちたに、どこにいんのかな~?
俺はきょろきょろと図書室の中の方へ入っていく。
すると、
カタン
と音がした。
・・・・こっちか?
おくの小説の棚の前に、黒の長い髪をした女子がいた。
いたいた・・・・。
見たところ、今、ここには俺たち二人だけのようだ。
「ぼちたにさん、み~っけ!」
俺の声にビクッと体を反応させる。
おもしれえ・・・。
おそるおそる振り返るぼちたに。
「今日も、一人~?」
「・・・。」
なにも言わず、ぎゅっと本を胸のところで抱え込む。
そのまま近くの大きな机に並んだイスに腰掛けた。