女装男子VS男装女子。



「……マジうぜぇ。秋田…死ね」

イライラとさっきの授業が甦る。

「死ねばいいのに。てか、なんで生きてんの?おかしくね。あ、まだ寿命じゃないとか?ふざけんな。そんな寿命、俺が今すぐ止めてやんよ!!」

立ち上がって職員室に直行しようとする。

「ちょ、天野待てっ!落ち着けってマジで!!怖ぇから!」

「知るかんなもん。アイツが悪いんだ。俺を怒らせるから。一発殴って殺らねぇとわかんねぇんだよ、アイツは」

そう言って拳を握るあたし。

「うおっ、ま、待て!早まるな!しかもやるの字違うし!!」

「違わねぇよ。これで合ってる。だって俺は今から殺りに行くんだから……」

「止めろ落ち着け!ほ、ほら今は昼休みだぞ?五十嵐に言うことがあるんじゃねぇのか?」

慌てて蓮があっくんのことを出す。

そうだ……あっくんに早く伝えないと。

「チッ。しょうがねぇな!あっくんのことのが大切だ。秋田は今度殺るか」

「そ、そうだ!って、え?こ、今度……??」

蓮がなにか言ったいたが、全て無視してあっくんがいるであろういつもの空き教室に行った。


―――――――ガラッ


「……あっくん、いる?」

「……いるよ、桃」

ニコりと笑うあっくんが、ドアを開けると座っていた。

「あのね、あっくんさ、返事いらないって言ったけど」

「……うん」

「やっぱりちゃんと返事、返したほうがいいと思って」

「……うん」

「…………ごめんなさい、あたしはあっくんの気持ちに応えられない。あたしには…好きな人がいるの」

バッとあたしは頭を下げる。

涙が零れてきそうだった。

……人をフるのって、こんなに辛いんだ。
知らなかった……

「知ってる。わかってたよ、こうなることは。僕って卑怯だから、返事わかってたのに桃に告白したんだ。最低だよね」

泣きそうな顔であっくんが呟く。

「っ、そんなこと……ないっ……!」

「フフ……ありがと、桃。桃は昔から……優しいよね。返事だって、桃を苦しめることがわかってたから要らないって言ったのに、ちゃんと返してくれるし」

「……あたし、優しくなんかないよ」

だって、あたしはあっくんにそんな顔しかさせてあげられない。

ヒドイ女なんだよ。

「ううん、桃は優しいよ。これで僕、ちゃんと桃のこと諦められそうだから。……ありがと、桃。大好き」

「あたしだって、大好きだよ……!これからも仲良くしてね…?」

「もちろん。幼なじみとして、これからも桃と一緒にいるよ」

そう言って、あっくんは今までにないほどの綺麗な笑顔で言った。

あっくん、大好き……

「じゃ、教室戻ろうか?」

「えーしばらくここにいよーよ。ね、あっくん」

「じゃあ次の授業サボっちゃおうか。どこか行こ?」

「おぉー!いいね♪」

あたしとあっくんは顔を見合わせて笑った。

「どこ行こっかー」

「んー、校内探検でもする?」

「楽しそう!あたし、まだ全部行ったことないんだよねー」

「決まりね。じゃ、行こっか」

「うん!」

揃ってふたりで空き教室を後にし、校内探検を始めた。

まだ昼休みということもあって、人が多い。

ゆっくりと歩きながら、あたしはあっくんと話していた。

「ねー桃ってさ、まだお化け屋敷苦手なの?」

「……うん。無理」

「そっかー。今度一緒に入ろうね」

「今無理って言ったよね!?」

「あはは」

あっくんが可笑しそうにあたしを見る。

「あ、桃男装やめないの?」

「うん。卒業するまではやめないよ~」

「そんなこと言って、すぐにバレそうだよね」

「え、あたし今まで女だってバレたこと一度もないよ」

残念なことにね。
あたしはどっからどう見ても男にしか見えないようで。

地味にショックなんだけどね…。

「そうじゃなくて、ドジ踏んでバレそう。そうだなー、例えば転んでカツラが取れちゃうとかね」

「またまた~あり得ないってそんなこと……っギャッ!?」


ベタンッ

そんななんとも言えない音を出して、あたしは転んだ。

「……大丈夫?フフフッ」

あっくんが口を押さえながら、もう片方の手をあたしに差し伸べる。

口押さえてても笑い声聞こえるからね。

あぁ恥ずかしい。

周りの人もクスクス笑ってるしさ!


あたしは羞恥心で顔を真っ赤にしながら、あっくんの手を借りて立ち上がった。


ズルッ……


「あ」

あっくんの間抜けな声がする。

「ん?」

なんだ?どうした?

キョロキョロと周りを見回して見るが、みんなあっくんと似たようなリアクションをしていた。

「……なに?どうしたの?」

そうあっくんに尋ねると、

「…………桃、カツラ」

「ん?カツラ?」

あっくんが、あたしの足の先にある黒い物体を指差す。

なに言ってんの?

カツラはちゃんとあたしの頭に……


ない。


「え、は、あれ?なんで!?」

自分の頭をさわさわと触りながら、確かめる。

が、カツラらしき感触はない。

しかも、あたしはカツラの下で髪を結んでいないから、カツラのない頭は髪の毛を閉まっていることができなくて、そのまま出てしまっている。

長い髪があたしの頬に掛かった。


恐る恐るあっくんの指差す黒い物体を見てみると、そこにはあたしが今まで着けていたであろうカツラが。

「…………マジ?」

「……マジ、みたいだよ桃」


え、ちょ、ちょっと待ってこれって……


かなりヤバくね??


周りからの視線があたしに集まってくる。


「え、なにアレ」


「カツラ?」


「なんでそんなものが……」


「てゆうか……



天野って女?」


……………………………………。


バレてーら!


て、そんなこと呑気に言ってる場合でもなくて!


「ど、どうしようあっくん!ば、バレちゃった!!?」

あっくんもよく状況が呑み込めてない様子だった。

「と、とにかく……桃、ここから逃げるよ」

ぐいっとあっくんに腕を引っ張られた。


「ぅえええぇぇえ!?マジですかーーーっ!!??!」


あたしの絶叫が、校内に響き渡った。












バタバタバタバタッ……



只今あたくし、天野 桃は、あっくんに腕を引っ張られて


逃走中♪


……なーんてふざけてる暇はない。

「ど、どうしようあっくん!追いかけて来るよ!?」

「いいから!桃は走ることに集中して!!」

「り、了解です!」


あっくんに腕を引っ張られながら、必死に足を動かす。

てか、あっくん足はやっ!

今関係ないけどね!!


走りながら後ろを振り向いて、
追手が来ていないかを確かめる。


……うわぁ。

うじゃうじゃいる……キモッ!


「桃!後ろ向かないっ」

「は、はいっ!」

あっくんの余裕のない声があたしを急かす。

………どうしてあたしとあっくんが追われているかというと(主にあたし)、


あたしの男装が、


バレちゃったからなんです。



しかも、あたしのドジで。


あり得ない……マジあり得ない。これほどまでに自分を呪ったことがあっただろうか。


いや、ない。


「右にいくよ!」

「オッケー!」

今こうやってあっくんを走らせてるのもあたしのせいだし。
あっくん関係ないのに。

ゴメンあっくん。


ていうか、

「いつまで走ってればいいのぉ~!?」


まだついてくる野次馬たち。

あたしが悪いんだけど……あたしが悪いんだけど!

「鬱陶しんだコノヤローー!!」

野次馬に向かってキレるあたし。

だが、野次馬は気にも止めていないようだった。

「桃うるさいっ」

「うぅ~っ」

だってぇー!

アイツらが追って来るのが悪いんだぁーーっ

断じてあたしが悪いわけではない(責任転換☆)。

「次もまた右!」

「はいっ」

またあっくんが角を曲がる。

あたしもそれについて行きながら、角を曲がったところで誰かにあっくんに掴まれてないほうの手を引っ張られた。

ぐらっ……と体が傾いて、どこかの空き教室に入る。

もちろん、あたしを引っ張っていたあっくんも空き教室の中だ。

そして、あたしを引っ張った誰かが急いで空き教室のドアを閉めた。

野次馬たちが、あたしたちに気づかずに空き教室を通りすぎていく。


「…………ほっ。撒けたみたい……」


よかった……と胸を撫で下ろそうとするが、両方とも掴まれていて、手が使えない。


ていうか、あたしたちを助けてくれた人って……


バッと顔をあげると、ゴンッ……と鈍い音がした。


「……ッいったあ~!」

「ってぇ……」

あたしと誰かの声が被る。

どうやら頭をぶつけたのはあっくんではなく、あたしたちを助けてくれた人の方らしい。

でも、この声って……

もう一度頭をぶつけないように、今度はゆっくりと顔をあげる。


そこには、痛みで悶えている蓮がいた。


「、蓮!?」

「んだよ石頭!」


あたしを見た蓮の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


そんなに痛かったんだ……


なんとなく申し訳なくなりがら、なんでここに蓮がいるのかという疑問が浮かんでくる。

「な、なんでこんなとこにいるワケ?」

「あぁ?いちゃ悪いのかよ」

「そんなことは言ってないでしょ。黙って答えなさいよ被害妄想男」


ギロリと蓮を睨むと、蓮は大人しくなった。


そして、次の瞬間には真っ赤になっていた。


「お、おまっ……お前なんで髪長ぇんだよ!」

「カツラが外れたからだけど」

冷静に返すあたし。

てか、何それだけでどもってるワケ?


「意味わかんない」

「桃は知らなくていいよ。……ね?」

「え、うん……」

何故かあっくんにものすごい笑顔で言われた。


「で、そんなことより、なんで蓮がここにいんの?」

「あぁ……それな。たまたまここら辺歩いてたら、走ってくるお前らを見つけて。なんか切羽詰まってる感じがしたから、とりあえず空き教室に突っ込んだってワケ。……ほんとは、少し違うけど……ボソッ」

「ふぅん。で、少し違うのはなんで?」

「い、言えるかバカヤローーっ!!」

「はあっ!?あんたって本っ当意味不明!」


少し赤くなりながら怒る蓮を見て、顔をしかめた。

あっくんはそんなあたしと蓮を見て、面白そうにニヤニヤしていた。

そんな顔も様になるなんて、ほんと、イケメンって特だよね。


「で。お前らはなんで追われてたんだよ?」

「……言わなきゃダメ?」

「…………………………ダメ」


え、なにその溜めは。

ちょう気になるんですけど。


「溜め多くない?」

「多くない」

「そう……」


絶対に多かったけどね。

まあいいや。

「で、なんで追われてたんだ?」

「…………あっくん、よろしく~」

「はあ…しょうがないなぁ。あのね、実はね、桃の男装がバレちゃったんだよね。だから追われてたんだよ。ね、桃」

「そーそー。そうなんだよねー」

「ふぅん。……って、はあっ!?それ、一大事じゃねぇかよ!なんでそんなに軽いんだよ!?」

蓮が大声で叫ぶ。

「……うっせぇな。黙れヘンタイ赤面男」

「ほんと。静かにしてよ。僕たち、特に桃が追われてるって今の話で分かったでしょ。神宮がそんなにうるさかったら、僕たちがここにいるのバレちゃうじゃん。バカなの?」

あっくんが冷たい視線を蓮に送る。

おぉ……絶対零度。

あんな視線をあっくんみたいなキレイな顔した人に送られたら、絶対に氷付けになってしまう。

現に今、蓮が氷付けになってるし。

ていうか、思ったんだけど、あっくんってなんか蓮に冷たくない?

まぁどうでもいいけどさ。


「オレはバカじゃねえ。ま、大声出したのは悪かったな」

「……あっくんどうしよう。蓮が素直に謝ってるよ?明日、いったい何が起こるんだろう……」

「きっと、明日地球が滅びるんだよ。じゃなきゃ蓮が素直に謝るなんてあり得ないし……」

ひそひそとあっくんと明日がどうなるのかを話す。

「……お前ら……オレが素直に謝るのがそんなに珍しいか……?」

目尻をひくつかせながら、蓮が聞いてくる。
そんな蓮にあたしとあっくんは、


「「うん、珍しい」」


と二人で全く同じことを言った。


それを見て蓮がため息をついたのは、言うまでもない。


「あぁ……明日からどうしよう」

「んー、もう女として来ちゃえば?」

「無理だよあっくん!だってあたし男子寮に住めなくなっちゃう…」

「今さら男子寮に戻ったって、襲われるだけだよ、桃」

うーん、とあっくんと二人で悩む。

「……じゃあ、オレん家くる?」

「え。やだ」

「なんでだよ!」

だって。

好きな人の家なんかに恥ずかしくて行けるわけがない。

蓮の家に行くくらいなら、

「あっくんの部屋に泊めてもらう」

あっくんがいいならだけど、と付け足す。

「僕は別にいいよ」

「よし、じゃあ決まり」

「決まりじゃねぇよ!一人でオレん家来んのがイヤなら、五十嵐も来い。それなら問題ねぇだろ」

……あたし一人じゃないなら…いいかな?

あっくんもいるし、きっと大丈夫だろう。
何が大丈夫なのかよくわかんないけど。

「それならいいよ」

「じゃあ今から車呼ぶから、外行くぞ」

「わかった」

そう言って、あたしたちは警戒しながら外に向かった。






数分後、蓮の呼んだ車はすぐに来て、

あたしたちはそれに躊躇なく乗り込んだ。


「へぇ。神宮って、本当にお金持ちだったんだ」

「あたしも最初ビックリしたよ。あ、家もスッゴくデカイんだよー」

あたしは車の窓から外の景色を眺め、堪能する。

「でも高級車ってさー、座り心地とか抜群だけど、なんか落ち着かないよね」

「そうか?」

「お前に聞いてねぇよこの坊っちゃんが」

あたしはあっくんに聞いてるの!

あんたに答え求めてどうすんのさ。

「んー……僕はなんでも取り敢えず乗れたらそれでいいかな」


うわぉ。
あっくんてば乗れたらそれでいいのか。

ていうことは、

乗れなかったら高級車でもダメなのね。


なんて大物。


「なんか……あっくんカッコいい……」

キラキラとした目であっくんを見る。


マジ、尊敬するわ!


「そ?ありがと」

おぉ……なんってキレイな笑顔なんだ。

鼻血が出そうになっちゃったよ。

思わず鼻を押さえる。


「いやー…イケメンの笑顔って破壊力半端ないね」

あっくんの笑顔を見て思ったよ。

「じゃあオレの笑顔だな」

「は?バッカじゃないの?あっくんのこと言ってんのよ」

「なんかオレの扱いが酷くね……?」

「気のせいじゃない?」

ね?とあっくんに同意を求める。

あっくんは口元を押さえて、クスクスと笑っていた。

「そうだね。神宮の気のせいだよ。たぶん」

「そうか……って、たぶん!?」

「うん」

あぁぁーっと蓮がよくわからない悲鳴じみたものをあげる。


だって……ねぇ?

蓮の笑顔が一番破壊力半端ないよって言ったら、絶対調子に乗るでしょ?


とか、もっともなこと言っておいてなんだけど、ただあたしが言うの恥ずかしいからってだけなんだけどね。

そんなこと言ったら、

恥ずかしくて蓮の顔見れないし。
真っ赤になった顔なんて、見られたくないし。

絶対、蓮には言ってやんない。

蓮の笑顔が好きだよ、なんて。



それを言うときは、あたしが蓮の彼女にしてもられた時ね?

いつになるかわからないけれど。




「蓮様、家に到着致しました」

運転手さんが、さきに車から降りて蓮の座る席のドアを開ける。

「お、着いたか。天野、さきに言っておくが、この前みたいに逃げんなよ?」

「はぁ……わかってるって。しつこい男だな蓮は」

蓮と無駄口を叩きながら、車から降りる。

あっくんもあたしの後に続き、車から降りた。


「よし、みんな車から出たな。じゃ、行くぞ」


あっくんが降りたのを確認すると、蓮はさっそく家へと歩き始めた。



「ここが、天野の使う部屋な。そして、その右隣が五十嵐。天野の左隣がオレの部屋だから、なんか困ったことがあればいつでも来いよ」

「わかった」

「じゃ、部屋は好きに使ってくれて構わねーから」

蓮はガチャリと自分の部屋のドアを開けると、中に入っていった。

「桃、僕たちも入ろうか」

「そだね」

そう言ってあたしたちも部屋に入った。



「……う、わあ」


すっげー。


部屋にはいってみて出てきた言葉がコレ。

てか、これしか出てこないと思う。


なにこの高そうな家具の数々。
怖いわぁー。


部屋の入り口で立ち止まったまま、部屋の中をぐるりと見回す。


そして、ベッドを見つけたあたしは、
躊躇いなく飛び込んだ。

……超ふかふか。

なにこれヤバい。


しばらくベッドを堪能し、今日あったことを思い返した。


明日から、男装しなくてよくなるのか……


普通の女の子に戻れるんだ。

嬉しいけど……


めんどくさい。


絶対みんなに質問攻めにされるし。


あーぁ、寮とかもどうなるのかなー。

もしかしたら学校も辞めさせられちゃうんじゃない?

男装バレちゃったし。