ああぁあぁあ……!
み、見られたっ……!こんな、恥ずかしい格好をっ…!
あたしはなんだか本気で泣きたくなってきた。
「っ!天野くん、カワイーッッ!!」
「は?」
か、可愛い??
なにいってんの?
アナタ頭大丈夫デスカ?
突然のことに頭がついていかない。
てゆーか、マジであたしのこと可愛いって言ってるアナタ大丈夫ですか。
「ヤバいっ!天野くん、写真撮らせて!」
「しゃ、写真?!」
女子は(名前がわからない)、あたしの返事を聞かずにスマホを取り出して、勝手にあたしのことを撮り始めた。
途中途中によくわからない奇声を発している。
あたしはよくわからず、ただ漠然と撮られているしか出来なかった。
騒ぎを聞き付けたのか、蓮とあっくんが同じタイミングであたしのところに走ってきた。
「っ、桃!?」
「天野っ!」
二人はあたしを見て硬直した。
「な、なんだよ!見るんじゃねぇっ!」
あたしは恥ずかしくて、二人をギロッと睨む。
「……」
「……」
だが、二人は固まったまま、あたしから目を逸らそうとはしなかった。
「だから見んなって!」
あたしが少し大きな声を出すと、はっとしたように二人に動きが戻る。
そして、一気に顔が真っ赤になった。
「桃……」
「な、なに」
「ちょう可愛い」
あっくんは照れながら言った。
うー、だから着たくなかったんだ!
そう言われるのが嫌だから着たくなかったのに!!
「でしょー!?ちょう可愛いよねっ」
「うん。ヤバい」
「だよねー!五十嵐くんってばわかってるぅ!」
さっきまであたしを撮っていた女子とあっくんが、何故か意気投合していた。
なにが!?
ねぇ、なにがわかってるんですか!?
あたしは二人を見ながら、そう言いたくなった。
蓮の方を見ると、まださっきのまま固まっている。
あたしはひとり、はあ、とため息をついた。
-文化祭当日-
「きゃー!天野くんヤバいっ!ちょう可愛いよぉ」
「それよりも!五十嵐くんがキレイすぎて何も言えないんですがっっ」
「てゆーか神宮様は神です。アナタほど女装が似合う人はいません!」
女子が口々にそう言う。
……おお。
すげぇ。女子すげぇ。さっきから、あっちでキャーキャーこっちでキャーキャーって、疲れないのかってくらい騒いでる。
まだ始まったばっかなのに、
この騒ぎようはなに!?
なんなの!?
まあ、しらけてるよりは全然いいんだけど、ね。
それにしてもうるさい。
騒ぎすぎでお客が来なかったらどうするつもりなんだろう。
あたしは騒ぐ女子達を呆れた目で眺める。
メンツがメンツだから、
ま、女子が騒ぐのもしょうがないんだけどさ。
だってあっくんに神宮だよ?
そのふたりが女装しちゃってるんだよ?
騒ぐなって言う方が無理でしょ。
あっくんは身長が高いけど、キレイな顔をしてるから、クールビューティーな感じの美人になってるし。
蓮は元から女装美少年だったし。
なんというか、かなり女装メイドのレベルが高い。
あたしはというと……、
「なんか…」
女の子のはずなのに、女装してる感がハンパないっていうか、え、あんた女の子だったの?っていうくらい女の子に見えない。
男の子が無理して女装しちゃいましたって感じが滲みでてる気がする。
つまり、
あっくんたちのようになってないってこと。
それは現役女子高生としてはとてもショックなわけで……(今は男子高生なんだけど)。
「はあ……」
自分の格好とあっくんたちのレベルの高いメイド姿を見比べては、何度も何度もため息がこぼれる。
だいたい、何でわざわざ男女逆転メイド&執事カフェにしたわけ?
逆転しなくってもいいじゃん!
こういうことして、傷つく人もいるってこと、わかんないのかな。
主にあたしなんだけど。
「はあ……」
と、また一つ、ため息をはく。
あたし、今日だけでどのくらい幸せ逃がしたのかな。
とりあえず、今あたしが幸せじゃないってことは確かだけど。
はっ、とバカにしたように笑ってみると、なんだかさっき以上に悲しくなった。
それもこれも、ぜーんぶ蓮のせいよっ!
蓮が男女逆転なんて提案したからっ……!!
ひとりでぶつぶつ文句を言っていると、背後から誰かに抱き締められた。
「うぎゃっ!だ、誰?!」
「えー、桃わかんないの?僕だよ、桃の愛しのあっくんだよー」
そう言って、あっくんはさっきよりも抱き締める力を強くした。
「あ、あっくん?!なにしてんの!」
「桃を抱き締めてるんだよ」
「そーゆうの、いいから!早く離れて~!」
「やだ」
オイ。
やだじゃねーよ、やだじゃ。
離れてくんないと仕事ができないじゃんかあ~!!
ひ~、とあたしは離れてくれそうもないあっくんに困っていると、誰かに手を引っ張られた。
ぐいっ
「へっ?!」
ポスンっと誰かの腕の中に納まる。
上を見上げて見ると、そこには何故か不機嫌な蓮がいた。
そして、あっくんと睨み合っている。
「……返してくんない?僕の桃」
「はぁ?誰のだって?」
「聞こえなかったの?神宮って耳悪いんだね」
「悪くねぇし。で、誰のだって?」
バチバチッ、とマンガだったらカミナリでも出そうなくらい、お互いを睨み合うあっくんと蓮。
間に挟まれているあたしは怖くてただじっとしているしかない。
「僕の桃って言ったの。聞こえた?早く僕の桃返してくんない?」
「お前のじゃねぇし。コイツはオレの奴隷なんだよ。そう易々とくれてやるわけねぇだろうが」
……あれ?
どぉしてこーんな険悪な雰囲気が漂っているのカナ?
…マジで怖いんですけど。
「てかさぁ、桃が嫌がってんの、見てわかんない?」
「はあ?嫌がってなんかねーよなあ、天野」
「え?!ここであたっ……俺にふるのかよっ!つうか普通に嫌だから。それ以前に暑苦しいし邪魔だから。お前に抱き締められてたら仕事ができねぇんだよ!いい加減離せやコラッ」
ギロッと蓮を睨む。
だけど、逆に睨み返されてしまった。
なんなんだよ全く!!
「ほら神宮。桃が嫌がってるのはわかったでしょ。早く離れて」
「ぜぇったい、い・や・だ」
「へぇ。僕にケンカうってんの?」
あっくんがヒヤリと冷たい笑顔で蓮を見る。
こわっ!
あたしがふたりに挟まれて怯えていると、「はいはーい!ふたりとも天野くんがだぁい好きなのはわかったから。でも今は文化祭だからさぁ、とりあえず仕事しようねぇ」と、にっこりとクラスの女子たちに言われた。
「そうだね。今は文化祭だった。みんなの言う通り、ちゃんと仕事しなくちゃ」
あっくんが思い出したかのように言った。
「神宮も、早く桃から離れて仕事しなよ。じゃあ桃、仕事頑張ろうね。あっ、いい忘れてたけど、そのメイド服、すごく可愛いよ。桃によく似合ってる」
それだけ言うと、あっくんは接客をしに行った。
「……」
カーッと頬が赤くなっていくのがわかる。
……あっくんてばよく恥ずかしげもなくあんなこと言えるよね……。
あたしは赤い顔を隠すように頭をぶんぶん振ると、仕事をしようと歩き出す。
……が。
「……蓮。離せ」
蓮に腕を掴まれているため、前に進めない。
「嫌」
「はあ!?」
意味わかんねーよ!さっさと離せってば!!
あたしは蓮の手を離そうと奮闘する。
でも、結局離すことはできなかった。
あたしはあきらめ、蓮が離してくれるのをおとなしく待つ。
「なあ、」
「何?」
蓮の声に少し顔を上げる。
「……お前って、…五十嵐好きなの?」
「………………は?」
何でそういうことになるわけ?
「だって…。なんかくっついてたし」
「あれはあっくんが勝手にくっついてきただけだし」
つうかアンタに関係ないだろ。
あたしはそういうように蓮を見る。
「関係なくねぇよ!……す、好きな女が他の男と仲良くしてんの見て気にならねぇわけねぇだろ」
蓮はそう言うと、真っ赤になった。
……あ、そうか。
そう言えばあたし、コイツの好きな人なんだっけ。
あははははは、忘れてたわー。
心の中で蓮に気づかれないように笑う。
「……オイ。全部聞こえてんだよ」
低い声で言われた。
あらら。
……聞こえてましたかー。
「……あは」
とりあえず笑ってみる。
「あは、じゃねえ」
うん、まあ誤魔化されてくれるわけないよねぇー。
「お前、人の告白を無かったことにするつもりか」
「……」
あんなのを告白と言っても良いのだろうか。
「まさかゲームのことも忘れてたりしないよなぁ?」
「……」
「忘れてたのかよ」
はあ、と蓮がため息をつく。
「……だって……あんまり興味無かったし?ゲームなんてテキトーに言ってみただけだし。そもそもあたし、別に蓮のこと好きなわけじゃないから正直どーでもいいっていうか」
「あぁ?…言ってくれんじゃねーか」
ギロッと蓮があたしを睨む。
本当のこと言って何が悪いのさ。
あたしはふんっと蓮からそっぽを向いた。
「天野……お前後で覚えてろよ」
「嫌。ぜぇーったい、忘れてやる」
だって覚えてても良いことなんかないだろうし。
そもそもアンタのために覚えてるなんて疲れるし。
めんどくさいし。
だから、
「忘れる」
こうすることにするよ。
ニヤリと蓮を見上げながら、笑うと、
「はっ、上等」
と言って蓮もニヤリと笑った。