あたしは聞こえなかったことにすると決めた。
「あーまーのー?」
静にしろ。
あたしは今寝てるんだよ。
「起きろー」
嫌。
だってまだ眠いもん。
神宮はあたしが起きないことが分かると、ため息を吐いた。
あきらめた?
よかったー、これでまた寝れる……
「……今すぐ起きねーとバラす。
みんなー、ちゅうもーく!実は天野ってー」
「わあああぁあ!起きた起きた!おめめぱっちり!!」
あたしは神宮の口を塞ぎ、あたしたちに注目するクラスメートたちにぎこちない笑顔を見せた。
その時、なぜか女子たちが真っ赤になったのだけれど、
あたしには理由が全然わからなかった。
ふぅ……。
とりあえず、バラされることは回避できた。
冷や汗拭い、神宮を睨む。
神宮はただニヤリと笑っているだけだった。
っとにコイツは……!
すっかり目が覚めてしまったあたしは、
寝ることを諦め、
次の授業は真面目に受けた。
「……ただいまー」
寮に帰ると、今日の疲れがどっと押し寄せてくる。
それもこれも、全部神宮のせいだ。
アイツ、何かにつけてあたしを脅してくる。
いったい何がしたいわけ?
あー、もう奴隷なんか辞めたい。
いっそのことあたしも本当の姿をバラしちゃえばいいんじゃない?
……ダメか。
男装がバレたら、あたしここにいられないし。
やっぱり、しばらくは奴隷でいるしかないか。
ガリガリとモサッとした髪(カツラ)をかく。
奴隷って、多忙だ。
あたしのクラスに転校生が来るらしい。
最近、やっと神宮の奴隷に慣れてきた。
いや、慣れたくないんだけどね?
ずぅーっとやってたら、誰だって慣れちゃうでしょ。
神宮はあたしを辞めさせる気はないみたいだし。奴隷を辞めることはもう諦めたよ。
うん。
そういえば、あたしのクラスに転校生が来るらしいんだけど、あたし的にはどーでもいい。
男でも女でもイケメンでも美少女でも不細工でも。
そんなことには興味がない。
でも、クラスの人はそうでもないらしい。
さっきから、みんな転校生の話ばっかしてる。
何がそんなに楽しいんだか。
あたしにはよくわからない。(とゆーかわかろうとしてない。)
神宮も、転校生に興味がないらしい。
ずっと机に伏せている。
あたしも寝ようかな~。
神宮も寝てるし、いいよね?
じゃあおやすみなさい~…
ガラッ
「お?何寝ようとしてんだ天野。これからHRだぞ~」
担任の橋本(初登場)が、眼鏡を直しながら言った。
「チッ」
「おい……仮にも俺は教師だぞ?」
「知らねーよこのクソ眼鏡」
あー、最悪。
これから寝ようと思ってたのに。クソ眼鏡のせいで寝られないじゃん。
うざっ!!
てかさ、なんであたしなワケ?
寝ようとしてたあたしより寝てる神宮注意しろよ。
あたしはイラつきながらも、結局HRを受けることにした。
「では、転校生を紹介する。入っていいぞー五十嵐」
五十嵐?
どっかで聞いたことのある名字。
どこで聞いたんだっけ?
教室に入って来たのは、キレイな男の子。
うわぁ……
スッゴいキレイな男の子……。
手足長いしまつげ長いし、髪もサラサラ。
それに、身長も高い。
180㎝くらいかな?
……なんか、モデルみたい。
ジーっと見ていたら、男の子と目が合った。
「……?」
しばし、男の子に見つめられる。
あれ、あたしなんかスッゴい見られてる?
なんで??
「じゃあ五十嵐、自己紹介してくれ」
「五十嵐 晶です。よろしく」
ペコッ。
「「「きっきゃあああああっ!!!」」」
転校生の自己紹介が終わったとたん、女子の黄色い悲鳴が上がった。
「イケメンよ!」
「イケメンだわ!」
「ちょっと!ウチのクラスレベル高くない!?」
うわぁ……。
女子の食いつきスゴ……。
なんかもうここまでくると逆に引くわー。
つーかレベルって何だよレベルって。
お前ら何のレベルつけてんだよ。
「えーっと、五十嵐の席は……そうそう!天野の隣だ!」
「天野……?」
「分かるか?あのものっそい機嫌が悪い奴」
む?
転校生、あたしの隣の席なの?
えー……。
しばらく(?)うるさいんだろうなぁー隣。
やだなぁ。うるさいと寝れないじゃん。
「……はい。分かりました」
「そーか、天野!」
「あー?何クソ眼鏡」
「五十嵐は転校してきたばっかで保健室の場所とか分からないだろうから、お前が後で校内を案内してやれ」
「やだ」
「やだじゃない。やらなきゃお前しばらく俺の奴隷な」
「やる」
「素直にそう言えばいーんだよ」
橋本は勝ち誇ったような顔をした。
眼鏡のくせに……!
あたしを脅すなんて!しかも奴隷とかお前は神宮かっ!
てゆーか最近身近の人を奴隷にすんの流行ってんの?
みんなして奴隷奴隷いいやがって…コノヤロウ。
はぁ~……でも、受けゃったものはしょうがないか。
あたしは諦めて眼鏡に従うことにした。
「天野も後で案内してくれるそうだし……五十嵐、もう席に座っていいぞ」
眼鏡がそう言うと、転校生はあたしの隣の席にストン、と座った。
ふむ……やっぱり顔、キレイだな。
どーしたらそんなにまつげとか長くなんのかな?
……ちょっとうらやましいぞ。
あたしは肘をつきながらモサッとした髪をかきあげた。
その時、また転校生と目が合った気がしたけど、きっと気のせいだと思う。
「じゃあ、これから案内すんな」
「うん。ありがと」
HRが終わると、あたしはすぐに転校生のもとに行き(って言っても隣なんだけど)、案内を早めに済ませることにした。
早く終われば寝れるからね。
ちなみに神宮はまだ寝ている。
これからあたしは案内するって言うのに、神宮は寝てるなんてズルい。
あの眼鏡どうして神宮に案内させなかったんだろ。