「キャーキャー!! 誠也(せいや)カッコいいー!!」
「愛してるー!! 誠也ー!!」
今日も渡り廊下はワイワイ賑わっている。
はぁ…。私の方なんか目も向けてくれない。
当たり前だけどね。
私、河崎光葉(みつば)。地味ーな中学2年生。
今渡り廊下が賑わっている理由。それは、“イケメンでちょっとS”で学校中有名な井ノ上誠也君がいるからだ。
実は私はその井ノ上君のことが好きなのだ。
でもこの恋が実ることはない。
何故なら井ノ上君にはたくさんのファンがいるからだ。
いつだって井ノ上君の周りには女子、女子、女子。
井ノ上君は私のこと、名前も知らないんだろうな。
地味ーな自分に凄くガッカリする。
周りからは「俺のオモチャになってくれんのか??」「どっかにいじめがいのある子、いないかなぁ。」という井ノ上君の声が聴こえる。
そんな声に返事するように「キャー!!それなら私が!!」「いや、私がなります!!」「ちょっと!!」という女子たちの争い声が聴こえてくる。
ひっ…。恐ろしい。とてもじゃないけど私なんかがあの中に入ったら大変なことになるに違いない。
そして今日も私は、井ノ上君に存在を知られることなく帰っていきました。
◇◇◇
はぁ。どうしたら井ノ上君と関わることが出来るのかな…??
井ノ上君を好きな気持ちは誰にも負けないのに…。
そんなことを思っていると。
「――おい。このハンカチ、お前のか…??」
愛しい声が聴こえてきた。
まさか…井ノ上君…??
ドキドキしながら後ろを向くと、そこには本物の井ノ上君がいた。
えッッ!? 嘘…。なんで!?
あっ質問に答えなきゃ!! ハンカチなんて落としてないよね。
「違います。」
緊張して顔が強ばってるのがわかる。
うわぁん!! 私の馬鹿ー!!
「そうか。…お前、緊張してんだろ??」
ええッッ!? なんで見抜かれてるの!?
一人であたふたしていると。
「ぷっ。焦ってるし…。お前、ちょー面白いんだけど。気に入った。お前、俺のオモチャになれ…!!」
…へ?? えぇええええ!? なんで私!? どゆこと!?
――でも…でも私はオモチャじゃなくて、井ノ上君の特別な存在……彼女になりたい。
我が儘かも知れないけど、こんなチャンス滅多にないけど…。
「――っ…。あーもう!! 俺はこんなことが言いたいんじゃねぇ!!」
ふぇ!? どうしたの井ノ上君!? 急に大声出して…。
「じゃあ、本当に言いたいことって……」
何ですか、と言おうとしたら。
「光葉。お前がずっと好きだったんだ。俺の…オモチャじゃなくて、彼女になってくれ。」
―――え?? 今、聴こえたことが空耳じゃないとしたら…。
これは、夢??
そんなことを思っていると。
「俺は本気だ。ずっとお前だけを見てきた。図書室で静かに本を読んで、ふにゃっと微笑む可愛い笑顔を…俺はずっと見てきたんだ。」
今聴こえた声で、これは夢でも空耳でもないことがわかった。
――嘘……。夢のまた夢にまで見てたことが、現実になるなんて…。
どうしよう……。嬉しすぎるよ…。
「――私も……私も井ノ上君が好きです。井ノ上君の彼女になりたかったんです。」
ちゃんと、井ノ上君に対しての想いを伝えた。
……えっ、ていうかずっと私が図書室で本読んでる所、見られてたのー!?
しかも、ニヤニヤしてるとこなんて……。
うぅ…。いろいろと恥ずかしすぎるよ…。
「――ぷっ。お前顔真っ赤…。ホントに俺のこと、好きなんだな。ちょー嬉しい。光葉に俺の想いが届いたとか…。」
井ノ上君にはいろいろと見透かされるなぁ…。
―――私も凄く嬉しいですよ…。井ノ上君…。
私の好きになった人は、ちゃんと私のことを知っていてくれて、名前もちゃんと覚えていてくれました。
どんなに私が地味でも、いつだって井ノ上君は見ていてくれました。
想いが繋がることがこんなに嬉しいなんて…私、知らなかったんだ…。
そして、私はずっと見てたあなたとカレカノになれました。
――生涯あなたを愛し続けます…。井ノ上君…。
[END]