その日の夜の真琴は、まったく何もする気が起こらずに、ごろんと横になった状態でテレビを点けた。

海外のサッカー中継を放送していた。

平生から真琴は、彼女が打ち込んでいるバレーボール以外のスポーツを見るのも好きで、中でもサッカーは一番のお気に入りであった。

一人の日本人選手を真琴の視線が捉えた。

真野恭介。

少年の頃より天才と呼ばれていて、司令塔として参加したワールドユースでは、その非凡な活躍により日本チームは決勝戦まで駒を進めた。

そればかりか、わずか十七歳にしてワールドカップの代表にまで選ばれ、十八歳にしてピッチに立った男だ。

この男の足から繰り出されるパスをヨーロッパでは、そのあまりにソフトなタッチから、ベルベット・パスと呼ばれている。

相手チームの選手の間はするどく潜り抜けるが、味方チームの選手の前では、まるで止まっているようにスローな動きに見えた。