リガスは妙に思っていた。

 花や果実をちらつかせてスクーヴァルの機嫌を取ることに成功したと思ったら、一日見ない間に落ち込んでいる。

 何かあったのかそれとなく尋ねてみたが、それらしき返答はない。

 翌日見れば、また沈んでいる。やはり理由は話さない。

「ああ、それなら……」
 親友のところへ行ってそれを言うと、少し気まずそうに彼は切り出した。
「色々言ったからな」

 罪悪感のようなものが感じられる。

「色々とは?」

 ステアルラは両手をひらひらと振りながら、
「いかにも暇そうなのに、『忙しいから帰れ』とか、『お前は俺がいなければ何もできない』とか、『どうせ一人で生活する力もないだろう』とか」

 リガスは目を瞬かせた。
 あの兄妹ベッタリだった様からは想像もできない。

「酷いだろう?
 だが、俺のことなど嫌ってくれたほうがいい」
 自嘲気味に言うステアルラの顔に、いかにも落ち込んだスクーヴァルの顔が重なる。
「甘やかしすぎた。兄離れしてもらわないとな」

「急ぎすぎではないですか?」
「いや、もう時間が……いや、なんでもない」

 ステアルラが言いかけた言葉を怪訝に思っていると、さらに不可解な言葉を紡いだ。
「……早く、俺の手の届かないところにやってくれ」

「……ステアルラ?」

 ステアルラは椅子から立ち窓際に行くと、
「多分、自分で生活できるような能力を身に着けたいと言うはずだ。俺がそう仕向けた。
 だから、お前はあいつに花嫁修業でもさせて、いいヤツを見つけてやってくれ。

 ……もう、兄妹ではいられない」

 その後は曖昧に首を振るだけではぐらかされてしまった。


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