リガスを伴って私室に戻ると、見たこともない料理が並んでいる。

 王が女官を捕まえてどういう料理か訊く前にリガスが穏やかな声で言った。
「スクーヴァルが作ったんですよ」

 途端、王が喜色を浮かべる。

 ――ステアルラの好きなメニューばかりですが……黙っておきましょう。

「スクーヴァルはどこだ?」
「お庭におられます」

 王の私用区間の真ん中にある庭園にその姿があった。
 王はにこやかに近づくと抱き締め、

「私のために料理を作ってくれたのか。可愛いなぁ。

 食欲は戻ったのか?」

 まだ頬がこけている。
 その頬を優しく撫でた。

「味見はしましたが……陛下と一緒に食べようと思って……」

 つんっと額をつつく。
「サディで良いと何度言わせる。
 その口調もやめないか」

「……ごめんなさい」
「いや、責めたわけではない。謝るな」

 肩を抱いてテーブルのある部屋へ戻ってくると彼女を座らせ、自分も座る。
「ほら、リガス。お前も座れ」

 リガスが同伴したのはスクーヴァルが王に打ち解けやすいようにするためだったのだが、これでは邪魔者な気がする。
「……いえ、私は失礼します」

「スクーヴァルの料理が食べられないのか! 薄情な!」
 そう言われてはリガスも座るしかなかった。

 リガスは食べながら彼女の様子を観察していた。
 消化に良さそうなものばかりだが、一応食べているようである。

「陛下。それはその右の赤いソースをつけて食べます」

 何を食べても「美味い」しか言わない王に、そっと口を挟んでみた。
 すると王は、また「美味い」を連発する。

 食後に王が庭に出ようとしたが、生憎雨が降り始めていた。
 王は構わず庭に出て、丁寧に花を見繕い始める。

「ほら」
 豪胆に彼女に花束を渡すと、濡れた身体など意にも留めないように満足そうに笑っていた。


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