”このは”




名前を呼ばれた瞬間、どっと涙が溢れてくる。


私、こんなに涙腺弱いはずじゃなかったのに。





「と、トナカイくんっ……!」





涙でぐちゃぐちゃになった顔でその名を呼んだ。


トナカイくんは私の目を見ながら、






「………大友 幸平。


昨日までトナカイだった奴の名前」





そして優しく微笑んだ。







………大友 幸平。


それが、トナカイくんの名前。





「あのっ……私っ…!!あんなこと言って、もう会わないとか…言っときながらっ!こんな、こんなっ……!!」





泣いてるし頭の中混乱してるしで上手く言葉にならない。


言わなきゃいけないことがたくさんあるのに言葉になってくれない。






トナカイくん……いや、幸平くんはそんな私を見て恥ずかしそうに頭を掻いた。






「えっと………このは、ちょっと周り見てみて?」





何で?と思ったけど幸平くんに言われるがままに辺りを見回してみる。






その瞬間、一気に冷や汗が出てきた。




周りにいるのは人、人、人。

街の人々は私と幸平くんから一定の距離を保ち、そこから私達を凝視していた。



いわゆる、やじ馬ってやつ。





まああれだけ派手な喧嘩した上に大声で泣き叫ぶ奴がいたら、見てしまうのは仕方のないことだろう。






でも…それにしても、



恥ずかしすぎる………。






「ここじゃロクに話もできねーし、場所移動しようか」






幸平くんは私の腕を掴むとデパート裏へと移動した。