教室を出て行く直前、お嬢は俺のそばを通り過ぎる。

「お嬢」

恐る恐る声をかける俺。

お嬢は俺の隣で一瞬立ち止まり。

「ぶってごめんって、羽山君に伝えておいて」

少しだけ、苦笑いを浮かべた。

…そうだよな、お嬢はこういう奴なんだ。

本気で相手をぶっ飛ばすのは、自分の事ではなく、親友の事を傷つけられた時だけ。

その時でさえ、やっぱり本気で相手を傷つけるのは良心が痛むんだろう。

本当は、お嬢は優しい子なんだ。

友達思いで、曲がった事が嫌いな、いい奴なんだ。

でも…。

「羽山には謝るのに、普段俺をぶってるのは謝らない訳?」

そう言うと、ピタリと。

お嬢は立ち止まって俺の方を見た。

「卓也君はMなんだから、私にビンタされて嬉しいんでしょ?」

ニヒヒ、と笑うお嬢。

…俺は頭を押さえた。

前言撤回、こいつやっぱり性悪女だ…。