その瞬間、俺は目を疑った。

身長150センチ程度の、本当に小柄なお嬢。

そのお嬢が、恐らくは本気で放ったビンタで。

…羽山が吹っ飛んだ。

お嬢の迫力に押されたっていうのもあるかもしれないんだが。

…人間って、本当に吹っ飛ぶんだな…。

羽山はお嬢の全力ビンタで顔が一瞬歪み、そのまま机にぶつかって、派手な音を立てながら転倒した。

「いい!?よーく聞いときなさい!!」

デカイ声を張り上げてお嬢が言う。

「羽山君が誰に手を出して誰と付き合おうが勝手だけど、ゆきちゃんと付き合う気なら話は別よ!」

彼女は羽山の目の前にしゃがみ込む。

びびった羽山が後ずさりした。

「ゆきちゃんはね、本当に優しくて素直で、可愛いいい子なの!付き合う気なら本気で大事にしなさい!二股かけてゆきちゃんを泣かせるような真似すんなら、今度は本気でぶつからね!!」





…意外だった。

てっきりお嬢は二股かけられた事を怒っているんだと思っていたけど。

そうじゃなかった。

親友である宗方に、いい加減な気持ちで言い寄っていった羽山に対して怒っていたんだ。




…てかお嬢、さっきのビンタでも、お前全力じゃないのかよ…。