およそ1メートルの距離を保って、向き合うお嬢と羽山。

ゴクリ、と、羽山が唾を飲み込む音がここまで聞こえてきた。

「卓也君から話は聞いたんだけど」

そんな声色も出せたのか、と驚くくらい、お嬢は低い声で言った。

「羽山君、私とゆきちゃんを二股かけるつもりだったのかしら?説明してもらえない?」

とびっきりの、極上の笑顔を浮かべるお嬢。

こんな状況でこの笑顔は、余計に戦慄を覚えさせた。

「え…いや…あの…」

助けを求めるように俺を見る羽山。

俺は首をブンブン横に振る。

馬鹿言え、俺がこうなったお嬢を止められる訳ないだろが。

自分の不始末は自分で何とかしろ。

俺と羽山が無言のやり取りをしていると。

「何も言わないって事は、特に異論はないって事ね?」

はぁーっ、と、お嬢は溜息をついた。

そして!

「歯を食いしばれ、羽山邦彦っ!!」