何だろう。
凄く居心地が良い。
別に何を話すわけでもなく、ただ隣に居るだけなのに。
クスクスと漏れるあたしの笑い声も、辺りを照らす月の光も全て。
――♪
そんな時を裂く様に、鞄の中で鳴り出した携帯電話。
鞄から出した携帯のディスプレイを見つめて、小さな溜息が自然と零れ出てしまった。
鳴り続ける携帯をマナーモードへと切り替える。
バイブし続ける携帯をそのまま、鞄へ入れると動きが止まった。
ハッとして顔をあげると、不思議そうな顔を見せる光に
「携帯、出なくていいの?」
と尋ねられてしまった。
「あー、うん。いいの」
「ふーん……」
変に思われたかな。
携帯に出ないで、バイブにして。
って、何思ってんのあたし。
別に光に、どう思われたっていいはずなのに……。
――
一度止まったバイブが再び振動した。
鞄の中で何かに当たっているのか、ブーンブーンと定期的な音が辺りに漏れる。
最悪。
本当に、しつこいんだから。
「……鳴ってるけど」
「うん、鳴ってる……ね」
「出ないの?」
キョトンとした顔をする光から視線を逸らし、鞄を見つめ
「うん、出ない」
と呟いた。