「おかえりなさい、月美さん」
光に……。
ううん、正確には飛び立った飛行機に背を向けて歩き出した、あたしの前には東吾さんがいつものように優しく微笑んでいた。
「え? 東吾さん……車は?」
まさか、ここに居るとは思わなかった東吾さんが目の前に居て、焦ったあたしは慌てて濡れた頬を拭った。
それに気付いたのか、気付いていないのか
「あぁ、止めて来ました」
と、優しく話す。
「……そう。東吾さん、ありがとう」
あたしが背を向けた、一面ガラス張りの大きな窓を眺める東吾さんは
「朧月夜ですね」
と、指差した。
その方向へと視線をやると、さっき見た朧月夜が浮かんでいる。
「僕は朧月夜が好きなんです」
愛しそうに、空に浮かぶ月を見上げる横顔は、とても綺麗で。
「実際見た事なんてほとんどないんですが、偶然にも月美さんと一緒に見れましたね」
黙っていれば凛々しい顔を、クシャッと壊して笑う。
あたしは、その瞳を見つめる事が出来ない。
だってあたしは、ついさっきまで別の男の人を想って涙を流していたんだよ。
こんなに純粋な真っ直ぐな人の想いを、また裏切ってしまったんだ。