あたしから目線を逸らすと、隣に居た人に話しかける。
同じように立ち上がろうとした、その人を笑顔で止めた後……
こちらへと真っ直ぐに向かって来る。
少しずつ近づいてくる姿に、心臓が押し潰されそうになる。
光の足音が聞こえて来る位、近づいた時。
「月美、こっち」
キョロキョロと見回しあたしの手を引くと、周りの人から死角になる場所へと身を潜め、瞬間ギュッと抱きしめられた。
この抱きしめ方。
この香り。
この暖かさ。
光、だ。
醒める前に覚えた光が、まだあたしの中にちゃんと残っていた。
「月美、何でこんな危険なマネ……知ってるだろ?」
光の腕から離れ、コクンと頷いた。
あたし達の事が、来週発売の週刊誌に報じられる事になった。と父から聞かされたのは昨日のこと。
政界とは、敵と隣り合わせの世界だと思い知らされた瞬間だった。
それを知っていても尚、あたしとの婚約を解消しないと決めた東吾さんの想いの深さを知った瞬間でもあった。
光は、そのせいで急遽神戸へと行かされるのだろう。
あたしのせいで……。