「無粋な質問だったかな」
ポツリと囁いた東吾さんが、車をUターンさせた。
「東吾さん?」
驚いたあたしは、東吾さんの横顔を見つめた。
「知ってたんです。今日……光君が神戸へ行く事を」
「え?」
「月美さんは知ってるのかな。って思ってたんですが。顔を見ればすぐにわかっちゃいましたね」
クスッと笑う東吾さんは、あたしをチラリとも見ない。
「さっきまでは、どちらにしても何も言わないでおこうって思っていました。
だけど、月美さんのそんな顔を見たら無理でした」
「東吾さん?」
「僕との婚約を解消して欲しいってご両親に言ったそうですね」
淡々と話す東吾さんに、言える言葉なんてなかった。
昨日、光の携帯が解約された事を知った後。
あたしは両親に婚約を解消したいと言ったんだ。
光の後を追いかけたかったからじゃない。
ただ、こんなあたしが東吾さんと結婚してはいけないと思ったんだ。
これほどまでに傷つけ、裏切ったあたしを許してくれたのに。
あたしは電話一本で、また全てを捨てようとしてしまった。
あれほど後悔したのに。
あれほど懺悔したのに。
何度、過ちを繰り返せばわかるんだろう。
こんなに愚かなあたしは堕ちてしまえばいいのに……。