「まぁまぁ。確かに、もう子供じゃない。
なら大人として連絡くらい出来るんじゃないかな」


まだ22時過ぎ。


その連絡をどうしてしなきゃいけないの?

そう言いたかったけど。


この場を落ち着かせるために、仕方なく頷いた。


これ以上、揉めて話が変な方向へと向かっては困る。


本当の事なんて言えない。


婚約者が居るのに、他の人を愛してしまった。だなんて。


言ってしまえば……どうなるか。


「東吾君も心配してたぞ?」


東吾さん……。


東吾さんは何も悪くない。

悪いのは、あたしなんだ。


別に悲劇のヒロイン気取りなんかじゃない。

もし悲劇のヒロインになれるなら、とっくの昔になりきってる。


それすらなれない……そんな、あたし。


東吾さんが悪いとすれば“運”じゃないかしら。

こんなあたしの婚約者になんてなってしまった……運の悪い人。


「月美、何とか言ったらどうなの!?」


黙って俯くあたしを急かす様に母が、また声をあげた。


言う事?
何もない。


だって、言える事なんてないでしょう?