キスひとつで、こんなにも気分が変わる。

さっきまでの暗い表情を捨て、軽い足取りで家へと入った。


それなのに……現実は必ずやってくる。



「月美!」


家に入るなり、怒鳴り声のような母の声が振ってきた。


そう。
これが現実。


「携帯にも出ないで何してたの!?」

「あー……、気付かなかったわ」


ヒステリックな声。

鬼のような形相であたしへと向かって来る。


「気付かなかったってっ。何の為の携帯なの!?」


頭ごなしに言われる言葉に嫌気がさした。


「月美! 返事くらいなさいっ!」

「何!?」


キッと睨むあたしに、一瞬怯んだ母は父へと目線を飛ばした。

それに気付いた父があたしを優しくなだめる様に


「月美、母さんだって心配してるんだよ?」


落ち着いた声で話しかける。


「どうしたんだ? 今までこんな事なかったのに」

「もう24よ? 付き合いだってあるんだけど」

「お父様に対して、その口の聞き方は何ですか!」


また横から入って来る母が鬱陶しい。


「あたし子供じゃないんだけど」


怒りから、呆れへと変わってしまった感情は、溜息まじりの声と変化していく。