東吾さんは、親が勝手に決めた婚約者。
あたしの人生は生まれた時から決まっていた。
幼稚園だって。
小学校だって。
中学も、高校も、大学も。
自分の意見が通った事なんて1度すらない。
それに文句を言いながらも、結局は全部親が進めてきた道を進んできた。
反抗をした時期もあったけど、最後はお姉ちゃんやお母さんに説得される。
あたしだって馬鹿じゃない。
上手く生きる事を覚えた。
何を思っても納得したフリをすれば良いだけの事。
ほんのちょっと、好き勝手が出来ない。そう思えば恵まれた生活だと思うし。
だから今回の結婚だって、そう。
まぁ今更、抵抗する気にもならないけど……。
東吾さんは、あたしには勿体ないくらいに優しい人だし、それよりもあたしを愛してくれている。
こんな人と結婚すれば幸せだと思う。
だけど、だけどね。
一度くらい、何かをしてみたい。
それが何か、と聞かれればわからない。
けれど、このまま一生が終わっていくのがつまらなくて仕方ないんだ。
こんな事を思いながらも、あたしは何も出来ないでいる。
これは心の中で見る小さな小さな夢。