レストランで食事をした後『もう少しいい?』そう言われて驚いた。
だって、あたしも同じ事を言おうとしていたから。
光は、あたしの心の中が読めるのかな。
そんな馬鹿な錯覚をおこしてしまうくらいに、わかってくれる。
「まだ寒いなー」
車から降りると、もう春だというのに冷たい風が頬をさした。
昼間の暖かな陽気に、半袖のワンピースの上にトレンチコートを羽織っただけのあたしは肩を竦ましてしまう。
「あ。あのマフラー使う?」
そう言って、車の後部座席を指差した。
あのマフラーって、さっきあたしが返したやつだよね?
光に借りた黒のマフラー。
それをついさっき思い出し、返したところだった。
「あれは、返したやつだよ」
「ん。でも寒いじゃん」
「そうだけど……」
クリーニングにも出したし。
それに光のだし。
そんなあたしの遠慮なんてお構いなしに、車のドアを開ける光。
そして、クリーニングの袋を破り、黒いマフラーを広げた。
「ん、使えよ」
「あ……ありがと」
ふわっ。とかけられたマフラーからは、もう光の香りなんてしない。
だけど、凄く暖かくて、柔らかい。