私はとりあえず
逃げた。
「お待ちよアリス」
トランプ兵は笑みを絶やさず追ってくる。
刃物を煌めかせて。
「嫌…!!絶対に待つもんか…!」
この人…眼が見えるトランプ兵…!?
「追いかけっこは嫌いなんですよ…分かってください」
「私は大好きなのでご心配なく!」
「アリスは面白いなぁ…」
「面白くなんかありません!!」
なんなのこの人!!
今までのトランプ兵とは性格も何もかも違う!
ロボットみたいな冷たさを感じないもの…!
「嫌いなら追いかけてこないでください!」
「でもアリスはお好きなんでしょう?」
「たった今嫌いになりました!」
「なら止まってくださいよー」
「それは絶対嫌!」
同じ会話の繰り返しだよ…!
このままじゃ、私の、持久力が、もたない!
もう、すでに危ない、し…!
助けてだ

ガツッ

「れか…っ!?」
足が何かにつまずいた感覚と、微かな浮遊感。
スローモーションで地面が近付く。
「きゃっ!」
私は何かにつまずいて転んだらしい。
…膝…いたい…
「はぁ、やっと止まってくれました。」
「!!」
トランプ兵が、額を手で拭いながら近付いてきた。

…やばい。

全身が危険信号を出してる。
逃げろ
にげろ
ニゲロ
ニゲロ!!!
「っ…!!」
体が、動かない。
「怯えないでくださいよ…アリスをどうこうしようとは思っていませんから…」
そう言って、トランプ兵は私の足下に刺さった刃物を抜いた。
…いつの間に…?
「我ながらナイスコントロール…」
抜き取った刃物をうっとり眺めて言った。
「…」
まさか、転ばせるために狙ったの…?
「どうです?ただのトランプ兵とはカスと神様ほどの違いでしょう」
本当にそうだ。
確かにちょっと怖いけど、撒いてしまえばもう追ってこれない。
でもコイツは、どこまでも追って来て、疲れも見えない。
「さぁ、アリス」
「……?」
「白兎のところへご案内いたします」
そんな恐怖の象徴が発した言葉に、私は耳を疑った。