「こちらですよ」
トカゲのビルの誘導で、私たちは女王様のところへ向かう。
ロウソクは、さっきよりも少し短くなっている。
「…やっぱり、広いね。」
「そうだなー。
おいビル、なんでこの城はこんな汚ねぇんだ?」
「ああ…」
ビルは顎に手をあてて、にこりと笑って言った。
「人手不足で」
「あんなに兵隊居るのにか?」
「…」
「猫?どうしたの?…そんな、ビルを疑ってるみたいに。」
「みたいじゃねぇ…疑ってんだ。」
猫が、ビルを睨み付けて言った。
「『お前』なら、解ると思ったんだがな」
「おやおや…これは手厳しい。」
クスクス笑って、ビルは肩をすくめる。
「…うふふ」
「び…ビル…?」
そうだ。
なんで私はビルを疑わなかったんだろう。
城のすべてを把握してるなんて、怪しさ満点なのに。
「やはり猫は邪魔でしたねぇ…」
金色の瞳が、怪しく光る。
「お前は先々代から女王に仕えていたらしいしな」
「よくご存じで」
「ふん。それに…」
お前からは、女王が好きな花の匂いがする。
猫が言うと、ビルは一層笑みを深くして
「…ククッ…あぁ…早く捕らえておくべきでした…。
ですが、これはこれで面白い。…ですねぇ…女王様…」
ビルが、天井に話しかけるように言うと
『なにも面白いことはありません』
城門で聞いた、美しい女性の声がした。
『ビルはいつも…ああ…もうよろしいわ…。戻りなさい、ビル。』
「仰せのままに…」
それから、女性――女王様の声はしなくなった。
「…と言う訳なので、私は戻ります。」
「あぁ?」
もちろん猫がそれを阻む。
ドスのきいた声で、ビルを睨む。
「てめぇ、こっから無事帰れっと思っとるんかぁ…?」
誰よこれ…。
しかも、眉間にしわを寄せてかなりガラ悪い…
そんな猫に怯む事もなく、ビルはにこりと笑った。
「…それなら、無理にでも通るまでですよ」
ビルは高らかに腕をあげ、パチンと指を鳴らした。