「月見里君。何、描こうとしてるんですか?」

部活の時間。

私と月見里君は久しぶりの部活を楽しんでいた。

先輩たちがまだ来ていなくて、二人きりの美術室。

「ん?秘密だよ」

「何でですか?」

「それ、言っちゃったら秘密じゃないよね?」

確かに。

私が納得して黙ると月見里君はくすくすと笑い声をあげた。

もしかして、私。

言いくるめられた?

「理恵ちゃんってば、面白い」

不満が表情に出てしまったのか、月見里君のくすくす笑いは止まらない。

むっ。

「いい加減、笑うの止めてくださいよ」

「わかったよ。ほらほら、理恵ちゃんも、描かないと。先輩、来ちゃうよ?」

やっぱり誤魔化されてるような気がする。

でも、耳を澄ませると先輩の話す声が聞こえたので私は急いでキャンパスの前に座った。

部室の一番隅。

「うーっす。文も理恵も描いてんのは珍しいな」

先輩たちがぞろぞろ入ってきて、皆作業に取りかかる。

静かな部室。

私が描いているのは月見里君の寝顔。

この前デッサンしたのに色をつけて仕上げてる。

彼の誕生日、8月3日までには完成させたいから。