『手加減出来ないぞ。』

その言葉に胸がドキッとした。

あの時でも、息が上がったけど

それよりも…激しいの?

黙ったままの私に

「…どうする?
やめるなら今だ…。
誘ってきたのは光華だからな?」

そう言って

京太朗さんは腕を伸ばしながら

私の背中の後ろの

シンクに置いてある

ゆずハチミツの容器を手に取った。

京太朗さんが蓋を取ると

ゆずの程良い香りが私の鼻を掠めた。

見つめ合う私達…。



あの時の光景がよみがえってくる。

数学準備室の狭いシンクと棚の間で

何度も何度もキスを交わした。

17歳の失恋したばかりの

まだまだコドモだった私には

刺激的なハチミツキス…。

禁断の扉を開けた秘密の味を知り

大人の階段を一気に昇ったような

もう先生から離れられないと

唇とココロに刻みこまれた

甘くて蕩けるようなキス…。


京太朗さんが指に一滴

ハチミツを落とした。

骨ばっているけど

細く美しい指に落とされると

キラキラ輝く宝石のよう。

…あの時みたいに美しい。

つい見入っていると

「…で、どうするんだ?
やめるか?するのか?」

と、京太朗さんが私を見つめた。

ドキドキする胸を手で軽く当てた。


『手加減出来ないぞ。』


耳にこだまする京太朗さんの言葉。


でも、私はもうコドモじゃない。

ギリギリ未成年だけど

もう京太朗さんから離れられない。

京太朗さんは私から離れていかない。

だから…もっと知りたい…。

もっと教えて欲しい。

勉強だけじゃなくて

オトナの愛を…オトナの味を…。