「今日、これから一緒に署まで来てもらうからね。」


刑事のひとりにそう言われたとき、
吉井はリビングで両親と話をしていた。


“何の話…?”


冷静さの中に垣間見える、父の不安げな表情

悲しげな母の背中―
私は不安で胸がいっぱいになった。


30分ほど経っただろうか…。
家宅捜査が終わると、
家を出る支度をするよう吉井に促された。


「おしゃれしなくていいからね。」


「はい…」


そのとき私は、
買ったばかりの黒のワンピースに着替えていた。

メイクこそしなかったものの―
パールのピアスと、
小ぶりのネックレス、指輪を身につけた。

それに、ワンピースに合わせたバック。

そして、祖父から贈られた腕時計―。



『おしゃれしなくていいからね。』

けれど…私は勝己に会えると思っていた。


“勝己の前では、いつも綺麗でいたい。”

それが私の願いだった…。


もしもあのとき、
私に与えられた時間がもう少しあったなら―

完璧なメイクをし、納得のいくまで髪のセットをしていたことは間違いない。