「雪の降り積もる真っ白な日だった。」


私がこの世に生まれてきた日のことを、
母はそう言った。



その雪のように、
美しく真っ白なこころで育ってほしい―
そう願ったに違いない。


ひとはみな、
真っ白なこころでこの世に生まれて来るのだろう。


数々のできごと、
出逢いや別れを繰り返し、
自分なりの色を付けて行く。



少なくとも
幼いころに付けられたその色は、
どんな色で塗り替えようとしても―
どこからか滲み出てしまう…。


そんなことを、いつも考える。








「おかあさん…」


台所で洗いものをする母を見上げた。


「……」


「おかあさん…」


「あっちへ行ってなさい。」



母の頬を伝う涙―


幼い私には、
それ以上かけられる言葉は何もなかった。



「……」


私は、母の存在を背中に感じながら―
寒い寒い廊下を歩き、居間へと向かった。



「じぃちゃん、一緒にお風呂入ろう。」


「おぅ…」


祖父は、
グラスに残った日本酒を一気に飲み干した。