「な、泣くなよ! ごめん、俺が悪かった。気にしてたんだよな」
「あーあ、泣いちゃった……。別にいいんじゃないの? 童顔だし可愛い顔してんだし、髪伸ばせば女じゃない」
少女がそう言うと、もっと少年は泣き始めた。

「バカ! そういう事言うなって!」
「っさいわね、別に悪気があって言った訳じゃないんだし」
「……それで、お二人はどうしてここへ?」
久米田が溜め息混じりに二人に問う。

「知らないわよ。いつもみたいにオジサンとホテルに入って、オジサンがシャワー浴びてる間に財布からお金抜き取ろうと思ったらいきなり目眩がして。……オジサンに買わせたジュースに何か入れられたかと思ったのに、なぜかあんたに起こされるし、こんなトコ知らないし」
高校の制服らしきものを纏った少女――歌音が俺を睨みながら言葉を続ける。

「ったくもう。何なのよ、ここ。あたし、これからまだ約束してるオジサンがいるんだけど」
「……いや、その前にさ。何、ホテルって」
俺が聞くと歌音は目を見開き、笑いながら答える。

「援交の相手に決まってんじゃん。ヤらせてはあげないよ? お金取ったらすぐにホテルから出るの。お客はね、昼間は真面目な会社員とか、教師とか、たまーに政治家とか。……ね? そこのオジサン」
歌音がくすくす笑いながら久米田に言い放つ。
俺とユリアが久米田を見ると、ポーカーフェイスを気取っているものの額からは一筋冷や汗らしきものが垂れていた。

「オジサンに会った時びっくりしたよ、だってニュースに出てたりする政治家だったし。国会議員も援交するんだね、それにまんまと騙されていっぱいお金取られちゃうし」
「あ、あんた援助交際なんてやってたのか?」
「……ああ」
くすくす笑う歌音の言葉を遮り、俺が問うと久米田は小さく頷いた。

「あたし、まだオジサンの名刺持ってるよ? 見せてあげよっか。えっと……あった! ほら、これでしょ?」

歌音がバックの中から取り出し差し出した名刺を受け取る。
小さな長方形の紙には、確かに久米田の名前と長ったらしい肩書きが羅列されていた。