「…………っ、」
俺が目を覚ますと辺りは真っ白の世界だった。無音でだだっ広い世界。

「ここ、は……」
「おはようございます」

ふいに背後から声がし、振り向くときっちりスーツを着た初老らしき男が立っていた。
俺はむくりと上半身だけ起き上がり、辺りを見回しながら俺が尋ねる。

「あの、ここは?」
「私にも分かりません」
男はそれだけぽつりと呟くと、俺の三メートルばかり先に座り込む。
男の表情は、どことなく絶望を漂わせていた。

「起きたらここにいたんですよ。これから会合があって、その前に用を足したくて手洗いに立ったんです。個室に入ったら急に頭が痛くなって、どうやら気を失ったみたいで……気が付いたら、ここに倒れていたんです」
「会合? あ、どっかで見た顔だと思ったらあんた、先日汚職議員だって報道されてた!」

俺が叫ぶと男はええそうです、と呟いた。

「私、久米田尚志と申します。自主党所属で、国会議員をやっています。ところであなたはどうしてここへ?」
「……俺は、付き合ってた女と心中図って二人の体をロープで縛ってビルから飛び降りた瞬間、意識がなくなって。ほら、飛び降り、って地面に着く前に意識なくすから楽っていうじゃん? だからそれかと思ったけど、気が付いたらここにいた。あんたと同じだよ」
「そうですか」

久米田と名乗った男は、小さく溜め息をつき俺の後ろを指差す。

「なら、あなたの後ろで今だ目を覚まさない彼らも、同じでしょうかね」

久米田の視線の先を見ると、十六くらいの男女が一メートル程間隔を空けて倒れていた。