私は、天才だ。
勉強なんかしなくてもスラスラと頭に入ってくるし、学校のテストは簡単すぎて100点以外取ったことないし。
そんな私は県内一の進学校に入学した。
そして、憎らしいあいつに出会った。
1位.300点 佐久間柊
2位.298点 東山環菜
信じられなかった。
入学直後のテストで、私の上に人がいた。
まさか、まさかこの私が2位?
ありえない!
「佐久間柊って何組?」
「えーと、確か1組かな」
気づくと私は走りだしていた。
1組の座席表を見て、佐久間柊、という名前を探す。
「……………いた!」
佐久間柊は窓際の席で友達らしき人と談笑していた。
「佐久間柊!」
私が呼びかけると佐久間柊はこちらを向いた。
……………………あれ?
私が想像してたのは、眼鏡で七三分けで、もっとがり勉っぽい人だったのに……。
「あんた、次のテストでは1位取れないからね!私が1位の座から引きずりおろしてやるわ!」
佐久間柊はくすっと笑った。
「………もしかして、東山環菜ちゃん?」
「そうよ!首洗って待ってなさいよ!」
また佐久間柊はくすっと笑って、ドアへと向かう私にこう言った。
「せいぜい頑張ってね、東山ちゃん♪」
………………い、いらつくー!!!!
それから中間テストまで、必死になって勉強した。
こんなに勉強したのは、受験のときですらなかった。
………………なのに。
一学期中間テスト
1位.佐久間柊 900点
2位.東山環菜 889点
勝てない。
1学期末テスト
1位.佐久間柊 900点
2位.東山環菜 892点
勝てない!
2学期中間テスト
1位.佐久間柊 900点
2位.東山環菜 895点
な、なんで勝てないのよー!!
「環菜、もう諦めなって」
「嫌!絶対嫌!」
中学からいっしょの亜美が言う。
亜美は私が中学生のとき、全く勉強していないのを知っているから、今猛勉強している私がおかしいらしかった。
「環菜も天才だけど、佐久間くんも天才だったってことでしょ。いいじゃない、2位でも」
「嫌。絶対あいつをギャフンと言わせてやるの!」
テスト後、順位表を見ながら悔しがっていると、必ず佐久間柊が現れるのだ。
そりゃもう、涼しい顔をして。
『残念だったね、まあせいぜい次も頑張りなよ』
なーんて言われるのだ。
この悔しさは私にしかわからないだろう。
「あいつ、テスト問題盗んだりしてるんじゃないの…!?」
「環菜、ちょっと妄想しすぎ」
亜美は苦笑いしたけど、私は確信した。
絶対、あいつは不正行為をしてるんだ!
あいつを尾行し始めて一週間。
おかしい。
佐久間柊は、全く勉強をする気配がないのだ。
学校を出ると友達とゲーセンへ。
ファミレスへ言って、夕ご飯を食べて。
家に帰るのはだいたい10時ごろで、佐久間柊の部屋の電気は11時には消えている。
「部屋の位置まで調べるなんて、私ストーカーみたいだ…」
今日も収穫がなくて。
がっくり肩を落としながら帰ろうとしたときだった。
「東山ちゃん」
「……………佐久間柊」
そこに立っていたのは憎らしいあいつだった。
「いつまで下手な尾行続けてるの?時間の無駄でしょ」
うう、バレてたか……。
「うるさい、あんたが不正行為を働いてるって証拠を掴むまで監視すんのよ!」
「ストーカーじゃん、それ」
「違う!あんたなんかにこれっぽっちの興味もないわ!」
「…あっそ。俺は東山ちゃんに興味あるけど?」
佐久間柊はそう言って私に近づいてきた。
一歩踏み出せば、抱きしめられそうなほど、近い。
「……な、なによ。からかってんの?」
間近で見た佐久間柊は、顔だけならクラスの女の子が騒ぐのも納得なほど整っていて。
「からかってないよ。俺に勝とうとする女の子なんて初めてだからさ。おもしろいんだよね、東山ちゃん」
にこりと笑う顔が、かっこいいのに、憎らしい。
「僕に勝ってみせてよ、東山ちゃん」
ちゅっ、と音がして。
おでこに当たったのは唇だと気づいた瞬間、私は鞄で佐久間柊を殴って駆け出した。
最悪最低チャラ男!!
そう思いつつも、私のおでこはいつまで経っても熱いままだった。
私達は高校3年生になった。
周りが受験モードになっていく中、私はいまだに佐久間柊に闘志を燃やしていた。
なんせ、勝てない。
どうやっても何をしても勝てないんだ。
「やっぱり不正行為を…」
「はい環菜、お勉強しましょうねー」
亜美の顔には聞き慣れました飽きましたうんざりです、の言葉がくっきりと浮かんでいる。
「今日の放課後にはこの前の全国模試の結果が発表されるってよ。今回は勝ってるかも」
「ええ、もちろん!私が勝ってるに違いないわ!」
1位 東山環菜
2位 佐久間柊
おかしい。
本当に、私が勝っているのだ。
中学生以来の首位なのに、心は晴れない。
私の足は無意識に佐久間柊の家へと向かっていた。
「………あれ、東山ちゃんじゃん」
いつもと変わらない飄々とした姿の佐久間柊。
こいつは、悔しくないんだろうか。
「東山ちゃん、すごいね、俺を越えたじゃん。これからも頑張りなよ」
思いっきり罵ってやろうと思ってたのに、言葉が出てこなかった。
「……………………あんた、悔しくないの」
「そんな悔しくないよ。それだけ東山ちゃんが頑張ったってことだし」
嘘つけ。
私があんたのこと何も知らないとでも思っているのか。
本当は悔しかったはずだ。
きっと佐久間柊も、中学生までの私と同じ、挫折を知らない人間だったんだろうから。
「……悔しかったら悔しがりなさいよ!いつも大人ぶって、馬鹿じゃないの!?いつまでも私の越えられない壁でいなさいよ!」
佐久間柊は、少しの間呆然としていた。
「………ごめん、本当はちょっとだけ悔しかった」
佐久間柊は、自虐的に笑った。
「初めてだったからさ、1位じゃないのは。めちゃくちゃ動揺した。でも、やっぱり東山ちゃんが頑張ったってことには変わりないんだからさ、自分のこと誉めてあげなよ」
佐久間柊は、私の頭をぽんぽんとして、メロン味のキャンディーをくれた。
棒がついてる、子供っぽいやつ。
「……………また私が1位とるから」
「うーん、それはどうかな」
ニコニコと笑う佐久間柊に、私は御守りを投げつけた。
「あんたが東大落ちたら、許さないから!」
私はそれだけ言って駆け出した。
佐久間柊は青、私はピンク色の御守り。
ついいっしょに買ってしまったのは、佐久間柊のことが好きだからなのかもしれなかった。
「受かった?」
「私が落ちたとでも思ってるわけ?」
「ははっ、俺も受かったよ」
今日は、東大の合格発表の日。
私と佐久間柊は、無事東大に合格した。
「……東山ちゃんがくれた御守りのおかげかな」
「そうよ!私の御守りのおかげに決まってるじゃない!」
佐久間柊は笑って、でも寂しそうにつぶやいた。
「もう、東山ちゃんと張り合うこともなくなるね」
「…………え?」
「東山ちゃんと張り合うの、楽しかったなあ。初めはなんだこのうざいの、って思ってたけど」
「……私も思ってた。憎らしい奴だと思ってたけど」
周りは受かって喜ぶ人、落ちて泣き出す人がたくさんいて、騒がしかった。
だから言えたのかもしれない。
「あんたが思ったより優しい人なんだなって、思ったよ。私のこと誉めてくれたし、キャンディーくれたし」
「俺も。俺が初めて負けた日、東山ちゃんがいなかったらそのまま心折れてたかも」
断言する。
私の顔は、今真っ赤である。
「だから、大学入ってからも私のそばにいていいわよ」
「……………告白?」
佐久間柊は、あの憎らしい程整った顔でにこりと笑った。
「しょうがないから環菜のそばにいてあげる」
始めは憎たらしくてしょうがなかったのに。
今では大好きになるなんて。
「浮気したら許さないわよ」
「環菜もね。かわいいから気をつけないと」
《メロン味♡終わり》