この束縛野郎が!!






「うん。面倒くさがり屋だもんね、雪乃は」


同意するように頷く優理。





「本当面倒くさいの桐谷。


離れてくれれば面倒くさいの無くなるのにって思ってた」





夏休み一緒にやった宿題。


どうやら成績は似たり寄ったりだったようで、
お互い自分が出来るところはやって、分からないところは聞きあって、
それが普通だった。

宿題が終わってからも図書館に来させられて、

最初は「炎天下の中歩いてくるの面倒くさい」って言ったけど、

いざ来始めると、本の好みが似ているらしい私たちは、
お互いが読んだ本を勧めたり、閉館ギリギリまで涼しい部屋で本を読んでいた。

桐谷の隣は落ち着いたんだ。


桐谷が席を外した時は別として、2人で座っていれば誰も話しかけて来なかったし。






「私、桐谷の束縛とか強引なところとか面倒くさいところばかり見つけてて、
2人でいた時の心地よさとか居やすさとか…それを当たり前だと思って見逃してた」










新学期になって、彼氏でもないのに私の事束縛してて、面倒くさい事ばかり言って、

でもそれが桐谷なんだって受け入れて慣れたら、

何だか『これが桐谷の当たり前』って思えて………









「雪乃、今のあんたにこの言葉を……




『嫌よ嫌よも好きの内』

『本当に大切なものは失って初めて気づく』






雪乃さ、今桐谷の事どう思ってるの?」





 






奏多サイド――――――――――――





吉村に『雪乃ちゃんの事で』と言われて学校を出て、


入ったのは直ぐ近くの公園。









ブランコに乗る吉村の横のブランコに俺も座った。









「で?雪乃の事って何?」


急かすように聞けば、吉村は苦笑いで口を開く。









「桐谷君、雪乃ちゃんの事ちゃんと考えた事ある?



雪乃ちゃん、桐谷君の事何にも思ってない…というより、



迷惑しているんだよ?『面倒くさい』って言ってる。



自分の気持ちばっかり押し付けて…それじゃあ雪乃ちゃん振り向きっこない」







顔をゆがませているのは雪乃の事を思い出してか……雪乃からどれだけ話を聞いているのか分からないけど、


俺より雪乃の事を分かっている様な気がするのは……



俺が雪乃に自分の気持ちを押し付けているから。





 







それでも俺は雪乃を離したくない。


雪乃は……あんなに一緒に居たい子はいない。



きっとここに居るのが吉村じゃなくて雪乃なら…

俺は雪乃の気持ちを考えずに色々言っちゃうかもしれないけど、それでも言うのは雪乃の隣が落ち着くから。



雪乃は、見返りを求めず愛したいと思える人だから。


















夏休み、市立図書館へ古典の課題の資料を探しに行った時、雪乃にぶつかった。




一緒に落ちた教科書を拾ったとき、
一本に縛った長い黒髪がサラッと前に落ちてきて、
フッと見とれてしまった。

ああ…綺麗だ…



普段ならこんな事になっても『じゃあ』で、切り上げるのに、

何故か一緒に課題をやろうなんて提案して、

その日だけじゃ飽きたらず他の宿題も一緒にやろうなんて強引に約束取り付けて、
連絡取れないと不便だから…なんて言いながら逃がさない様に連絡先交換して。


直ぐに気づいた。


俺はこの子に惚れてるって。




惚れてるだけならまだいい。


『この子を絶対離したくない。俺だけの雪乃にしたい』


そんな今まで考えられなかったくらいの強い独占欲と束縛心が出てきた。




それはもう…日を増す事に…雪乃が男と接するのを見る事に…




 







雪乃にとって面倒くさい男でも良い。


雪乃が離れて行かないように…逃げないように…




『いつか雪乃を手放せる日』なんて一生来ない。

俺自身の事だ。俺が断言する。





『運命の人はピンッと来るもの』だと昔お祖母ちゃんが言っていたけど、

俺は雪乃にピンッと来たどころか、ビビビビビビビッって来たぞ。



雪乃……雪乃……







雪乃の気持ちを考える余裕すらないこんな俺だけど、





お前の事が大好きで大好きでしょうがないんだ。
























「ねえ。桐谷君……――――――」



吉村は笑顔でそう言った。










―――――――――――――――――――――




 

 












頭の中でグルグルと考えて、


浮かぶものは一人の人で。





『これで念願かなったじゃん!良かったね』


って心の中に言い聞かせてみても、


心の中にポッカリと穴。












この中に詰まってたものは?















私はこの中に何を詰めたいの?



























空いた穴は風が吹き抜けて、

ヒューヒューって音がする。













 

 











昨日から一夜明けて…












その日も前の日も、桐谷君から連絡来ることは無かった。


こんなの出会ってから初めてだ。







朝や放課後に、下駄箱に居るかもと思ったけど、

やっぱりいない。









『ほらね。誰でも良かったんだよ。

離さないなんて嘘だったんだよ』







頭の中で誰かがそう言った気がした。






















 







「あ……あれ?藤崎さん1人?」



下駄箱でバッタリ会ったのは、

2学期始まった日に私に話しかけてくれたけど、桐谷君に割り込まれて結局話を最後まで聞けなかった…………今野君。






「うん?そうだけど…?」



私が答えれば、今野君はキョロキョロして私の周りを確かめるように見ると、
『あれ?なんだかチャンス…』とつぶやいた。




「チャンス?」


「あっ!ううん!なんでもないよ!」



ブルブルと首を横に振る今野君を不思議に思いながらも、私は上靴から靴に履きかえた。





「あっあの!藤崎さん!!」



あの時みたいに緊張した声で話しかけてくる今野君。





「校門まで一緒に歩いて行かない?」




目を見開いた。

最近そんな誘いをしてくれる人居なかった………





違う。いつもいつも桐谷が隣に居たから……


私が男子に話しかけられても桐谷が割り込んでたから………








桐谷…………私男子に誘われてるよ?話しているよ?


もうどうでも良いの?







 




結局、断る理由も無いので校門まで今野君と歩いて行った私。




今野君はクラスメートの面白い話とかしてくれてて、
確かに面白かったけど、今野君が居る右側の肩が落ち着かない。




それはもう、借りてきた猫のようにソワソワ。













途中で、何故か誰かに呼ばれた気がして…


寂しい声がしたような気がして…



周りをキョロキョロ見た。




しかし校舎の方にも、部活動をしているグラウンドにも、

私を呼ぶ人は居なくて、直ぐに気のせいなんだと思い直した。
































































『雪乃………』
















 
















朝、ケータイの画面を見る。



メールも着信も無し。











以前はケータイなんて無頓着で、1日持ってないくらいへっちゃらで、

桐谷にもよく怒られた。



『ケータイの意味ないだろ』



『ハイハイ』



『俺が雪乃をケータイすれば収まるけど』



『面倒くさい男…』













ハッと頭から思い出を掻き消して、

顔をパンッと叩いて立ち上がる。